第279話 セイバーモノクローム(中編)
サウロイドの月面基地の直上、高度70mに浮かぶ海底人の巡宙艦「マザーマンタ」のハッチが開いた――!
マザーマンタは基地に覆いかぶさるように浮いているが船体全体が透明のため、事情を知らない者が
ハッチからは、マザーマンタ内部の
[王子は観戦するだけですよ]
アームドシールは、セイバーモノクロームに念を押した。
[我々が戦いますからね。約束できないならマザーマンタに置いていきます]
[いやいや、分かっているよ]
[
[だから!俺は戦わんて]
王子と呼ばれたセイバーモノクロームはそうやって応えたが――
[いっちばーん!]
ハッチが開くや否や、ハッチから飛び下りてしまった。
[あ!観戦するだけと言ったでしょう!]
近衛の二人のアームドシールは慌てる。
[あれは嘘だ。わはははーっ]
[ちょっとー!]
科学力という優位性を持つ者の特権だ。
まるでサイやゾウを狩る密猟集団のように、彼らはこうやって、ふざけ合いながら出撃した。
――――――
ここで視点を変える――。
時間にして30秒ほど前、8人の装甲機兵は月面基地のA棟の屋根を上をスタタタッ!と忍者のように駆け、仲間の救援のためB棟を目指していた。
『はぁはぁ…!!』
気嚢という高性能な肺を持つ彼らでも、連戦続きで息が上がっている。彼らの装甲月面服(Tecアーマー)の性能が良くないせいもあった。
『みんな、急げ!』
戦闘になっているのはジャンクション(月面基地は十字の形をしていて、そのクロスする部分がジャンクションホールと呼ばれていた)の東ゲートだが、そこを攻める敵の背後から虚をつくためには、大きく迂回してB棟(東の棟。十字の右棒に相当)の端から内部に入りたかったので、いま居るA棟の(北の棟)上端からB棟まで、基地の上端から右端まで横断するような行程になった。
距離にして1.5kmほどである。
『走れ!』
『俺達が到着すれば…』
到着すればまだ勝機はある、そう思った矢先だった――!
ザン!ザン!!
列の後尾を走っていた2人の体を突如にして
――銛だと!!?
ほぼ真上から降った銛は、一本は一人の肩を、そしてもう一本は一人の頭を完全に捉えていた。頭頂部から刺さされた一人はBBQのように串刺しにされた即死である!しかし同時に
『だはっ…! う、上だ!!上!!』
肩を貫かれただけで済んだ一人は大きく転倒しつつも、勇敢冷静に仲間に警告した。その銛は闇討ちのために隊列の最後尾の二人を狙っていたわけなので、もし彼の警告がなければ、二撃目も許していたに違いない。
瀕死ながらファインプレイだ。
彼の警告のおかげで仲間も気づいた。
『なに――!?』
『奇襲だ!!』
6人の装甲機兵はそれぞれ、足のスパイクを基地の屋根に突き立ててズシャー!と火花を散らしながらブレーキをかけるとバッと空を仰いだ。
『はっ!?』
空を見たおかげで、次の銛に狙われていた二人はそれに気づき、ゴロンと身を躱す事に成功する!
一方――
『あ、あれはなんだ…!?』
他の4人は目を疑った。
基地の直上の空の真ん中に丸い穴が空いていて、そこから青白い光が漏れていたのだ。
事情を知る我々はそれが「海底人のUFOが透明になっていて、出撃ハッチの丸い穴だけ見えている」と分かるが、装甲機兵達はもちろん驚愕した。
だが、いまはそれどころではない。
『あそこだ!!銛を撃ったヤツだ!』
真っ黒な月の空に2つの人影が地球光に照らされてキラリと見えた。
『撃つぞ!』
装甲機兵の装甲機兵たるアイデンティティは、この「Tecアーマー」と言われる月面鎧である。装甲機兵の隊長であるエース大尉に言わせるとまだ改良の余地がある試作装備だが、少なくとも彼らの装備するフレアボール投光器は重い代わりに速射が効いた。
『侮ったな!我々を侮ったな!!』
『2-3フォーメーションだ!』
ボウゥ!ボウゥ!ボウゥ!
銛を回避するので転がった2人も体勢を立て直して、計6人が空に向かってフレアボールを撃った。2つの人影のそれぞれを3人ずつが分担する形で同時撃破を狙う!
『もらったぞ!』
再三、月面での戦闘の描写の中で注意点として挙げた通り、月面の自由落下は遅く風も無いので、ジャンプした側は大きな不利を背負う。
空中を風船のように漂うしかないからだ、普通は。
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