第280話 セイバーモノクローム(後編)
月面基地の屋根の上を忍者のように疾走する8人の
『上だ!』
エヴァンゲリオンのロンギヌスの槍がごとく、直上から降り刺さった2本の銛は2人の装甲機兵を一撃で戦闘不能にしたが、残りの6人はそれを見るや漆黒の月の空を仰いで、銛を放った敵影を見つけた。
『あそこだ!影は2つ!』
ジョークを言う余裕があれば「横槍ではなく縦銛だな」などと笑いたくなるが、もちろん今はそんな場合ではない。仲間2人がBBQのように串刺しにされているのだ。
『よく狙え!』
6人の装甲機兵は、ほとんど真上にフレアボールを発射した。
ボウゥ!ボウゥ!ボウゥ!
『もらったぞ!絶対に直撃する!』
エイリアンとの戦闘でも、ネッゲル青年との戦闘でも勝敗を決した重要なファクターは「月面の自由落下は遅く、しかも空気が無いので翼などで軌道も変えられないためジャンプした側は大きな不利を背負う」という点だった。
飛び上がったら最後、空中を風船のように漂うしかないからである。普通は。
しかし ――当たり前だが―― 海底人のアームドシールとて無策ではない。
『まさか…!?』
このとき彼らは、
というものエースが「
――月面におけるワイヤーとは
――海でのエラ、陸上での足……
――それほどに必要なものだったのだ!
『そんな、回避の方法があるかぁ!?』
驚く者がいる一方、
『いや。一石二鳥さ。食らえ!』
そう負け惜しみっぽく叫んだ一人が、今度はくっついている2つの人影に向かって続けざまのフレアボール(この連射間隔では充填率は低いが多少の攻撃にはなるだろう)を放った。
だが、それもダメだ!
2つの人影は今度は、お互いを蹴ることでバッと分裂して、そのフレアボールを回避した。
『だめか!』
この距離では、とても当たりそうもない。
『我々の武器の弾速は、なぜこうも遅いのだ!』
人類の
『落ち着け!着地際を狙うのだ。散開しろ』
『了解!装甲機兵の本懐、高速戦闘で
『もうスラスターはここで使い切っていい!火を入れろ』
『スラスター、アイドリング!』
そう言って、6人が白兵戦に意識を切り替えようとしたその矢先だ――!
ズゥーーン!!
輪になる6人の、ちょうど真ん中で地響きが起きた。
『――!?』
それは透明であったので、月面基地の内側で爆発があったのかと思った。
しかし見れば、基地の屋根がボコっと凹んでいるではないか…!
月にひっきりなしに降る小石大の隕石に耐えるように設計された強固な屋根に、直径1mほどのクレーターができていたのだ。
『い、いったい…!?』
一瞬、体が強張ってしまったが、そこは戦士達である。6人が6人とも完全に腰が抜けてしまうという事はなく――!
『敵だ!』
冷静にその透明な何かが、敵であることを察知した。
そう。それは透明ではあるが凝視すれば空間の歪み見て取れ、その歪みの輪郭を想像するに、それがラプトリアン以上の巨体を持つ人型生物である事が分かったのである。いや、そもそも足の裏や指先のような硬度が必要な部分、あるいは膝や肩など大きく曲がる部分は透明化されていない(できない)ので、この至近距離では完全な透明とは言えない!
――自分が透明になれていると
――むしろ、飛んで火に入る何とやらだ!
『甘い!見えているぞ』
輪になった仲間の真ん中にいる敵に対してフレアボールは撃てない。
しからば格闘を繰り出すのみだ――とばかりに、2人の装甲機兵がハイキックを繰り出した。ラプトリアンほどではないが、強力なキックである。
ド!ドン!
真空の月面だというのに、空気が見えるかのよう衝撃が2つ巻き起こる!
だが次の瞬間、6人の装甲機兵は絶句する。
なんと、そのキックが中空で止まっていたからだ!それはつまり、その透明な何かが左右から迫る蹴りを両腕で受け止めたという事に違いなかったのである。
ジジ…ジジジ……!
透明な何かの蹴られた腕にビリッと赤や緑のノイズが生じると、そのノイズは‟コウイカ”の体色が変わるようにゾワァと全身に広がった。そして透明化が解除されるや驚くべき図々しさで、臨戦態勢の
これがセイバーモノクロームの初陣……まさに彼好みのド派手な演出となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます