第277話 シャチ君とアシカ君……の謎
各勢力の霊長を数えると――
サウロイド勢力はサウロイドとラプトリアンの二種で構成され、人間勢力はホモ・サピエンスが単体で構成しているが、海底人ことDSL(Deep Sea Lives)勢力にはシール族とオルカ族に加えて「キュキュキュ」と耳障りに笑うドルフィン族の三種で構成されていた。
人間もネアンデルタール人を滅ぼしてしまわなければ二種構成になっていただろうが……まぁその話はいい。ここで何より興味深いのは、シール族とオルカ族の「見た目」である。
というもの彼らは前章の描写の通り冗談みたいな見た目だったのだ。なにせアンパンマンの動物村にいそうな「アシカ君」「シャチ君」の見た目のそのままなのである。
ここで何が言いたいかというと、ホモ・サピエンスやサウロイド、ラプトリアンには自然な進化を感じるが彼らは違うという点だ。
6600万年前に巨大隕石が落ちた確率次元では哺乳類を、落ちなかった確率次元の地球では恐竜を太幹とした進化の大樹が育った。そしてその枝の先端には、一方ではホモ・サピエンスが、一方ではサウロイド&ラプトリアンが結実したわけだ。
現に両者には、6600万年分の自然な独自性と創造性と
たとえばサウロイドの腕の羽毛(6600万年の間に一度、空を目指したのだろう)や、人間の水への適応(陸生哺乳類の中でシロクマと人間だけダントツで泳ぐのが上手いそうだ。人間に毛が無いこともあり川辺や海岸で進化した説がある)は、言ってしまえば進化の試行錯誤の残骸である。
顔の独自性もそうだ。
サウロイドの顔について筆者が、「フクロウっぽい」とか「アバターのアレ」というようにうまく描写できないのは、類似する生物がいないせいである。
しかし、こうした自然な成り立ちをシール族とオルカ族からは感じない。
彼らは本当に「アシカとシャチを擬人化したご当地キャラ」のような見た目なのだ。
彼らは可愛いが(実際は凶暴かもしれないが、一目見て愛着が湧くのは間違いない)科学的リテラシーを持つ者したら不気味であった。まるで科学力はあるが発想力の無い宇宙人が戯れに作った人工生物のようであったのだ。
彼らは何物なのだろう――?
彼らは確率次元が違う世界(パラレルワールド)から来たのではなく、時間次元が違う世界から来たと言ったが――?
と、そのときだ。
カルカルカル!
何か重く乾いた物が転がるような音が、マザーマンタの船内に響いた。これが彼らの着信音か警告音なのだろう。
[おっと、4人が戻ってきたかな?]
‟スクェア”のボードゲーム盤に視線を向けたままオルカ王子は言った。ここでいう4人とはエラキをリンチしていた「キュキュキュ」と笑うアイツらの事だろう。
[ん~、とですね…]
ゲーム盤を囲む3人のシール族の近侍の中で、最も王子と仲良しな雰囲気の一人(以下、アシカ執事と仮称する)は、さっさとカードを提示して自分の番を済ますと、天井のホログラムを見やって警告音の理由を確認した。
彼らは彼らの持てる力を行使しているだけではあるが、この「カードゲームをしながら」という舐めたムードは、サウロイドに肩入れしている筆者からすると腹立たしくてならない。
[あ、違いますね。月面に反応がありましたが彼らです]
アシカ執事はオルカ王子に対し、快速ではなく鈍行に乗ってしまった部下のサラリーマンのように告げた。「部長、これ各駅じゃないですか。まぁ間に合いますけど」という雰囲気だ。
[なにぃ?]
オルカ王子はまだゲーム盤を睨んだままだ。
[基地から
[どっちだよ?]
オルカ王子は、人間かサウロイドのどっちかと訊いた。
[尻尾がないから分かりにズライんですよ]アシカ執事は不平しつつ、ぬいぐるみのように少し飛び出した真ん丸な目で天井のモニターを凝視して続けた。[あ!彼らです。最初に月面で戦っていた
[なぁに!?]
オルカ王子は嬉しそうに叫ぶと、みんなが遊んでいる‟スクェア”のボードをひっくり返してしまった。
[竜が何かを企んでいるならば、そりゃ止めないといけないんじゃないのか?あ!?猿の方に不利に働くなら止めんとマズイんだろう!?]
[いや…シナリオ的にはそうですけど…]
アシカ執事は苦笑した。次の答えが分かっていたからだ。
[じゃあ仕方あるまい!私が出撃するしかないようだなぁ!]
[いやいやいや…]
オルカ王子はウッキウキである。
[いやぁ仕方ない。無念だ。私自ら戦わねばならんとはな!]
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