第276話 UFOの名はマザーマンタ

 マザーマンタは、海底人ことDSL(Deap Sea Lives)勢力の巡宙艦UFOである。


 月面基地に侵入して秘密工作(人類に気づかれないように人類の敵であるラプトリアンを殺しておいてやる)の任務にあたった4人のを収容するために、基地上空まで駒を進めた形である。


 そんなマザーマンタの1つしかない内部空間キャビンでは、オルカ(シャチ)の王子と、アシカの侍従(近衛兵であり執事である)が談笑していた。


[この乗り心地の良さはお前の腕か]

 マザーマンタは月の重力に逆らい、ドローンのように安定して滞空を続けていた。真空の月では謎だが、少なくとも重力制御などという神に等しい技術ではないことは確かだ。重力制御は時間と空間を制御するのに等しく、そこまでの技術が海底人にあるなら、この物語全体の覇権争いゲーム・オブ・ムーンはオジャンになってしまうだろう。


 閑話休題。

 ともかく、マザーマンタが快適だったものだから、オルカ王子は上機嫌だった。

[この乗り心地の良さはお前の腕か]

[あ、いえ。まさか]

 パイロットは「まさか手動で姿勢制御をしているワケではないだろう」と、苦笑と気付かれる事を恐れず苦笑した。

[だろうな。ははは。ならば、おい!貴様もこっち来てを喰え。えらく美味いぞ、コレ!]

[そ、それは非常食ですよ!太ります。雑魚の脂身です]

 雑多な魚(…どうやって月で得ているのだろう?)の脂身をいったんミンチにしてから改めて成型したタイプのチップスのようだ。ポテトチップスでいうと「プリングルス」とか「チップスター」のタイプである。


[仕方あるまい。生物の最も根源的な喜びは、カロリーを得ることなのだ]

 パイロットの他には、この居住空間キャビンにはもう二人の近侍がいて(ブリッジと呼ぶべきか、コクピットと呼ぶべきか……マザーマンタは人間にはよく分からない構造なので単にキャビンと呼ぶ)一人は壁際の椅子に、もう一人の近侍の中でのリーダー風の男は王子の隣で正座していた。

 以前、王子と一緒にティファニー山に登っていたアシカ男である。


[生物の喜びというなら、食より生殖では?]

 このアシカ男は特に王子とは仲良しのようである。だから正座なのはきっと、彼らの体の構造上その姿勢が楽なだけで、かしこまっているワケではなさそうだ。

[ん?]

[鮭など己が餓死してもなお、生殖を優先するわけですから。根源的な喜びとはセックスでしょう]

[ああ、それな!]

 王子は‟チップス”をばりばり食べている。いい音だ。

 きっと脂身だけでは乾燥させても「グニッ」となるので、おそらくはただの素揚げではなく衣として海藻やアミ(桜エビなど)の殻の粉末が使われているのだろう。


[お前達‟シール”はいいよ。女戦士もいるしな!]

[王子、シールの女の子だって構わないくせに…]

[ふざけるな、はははは!]

[まぁ、‟オルカ”も来るシナリオになっています。6年後ですが]

[6年だよ!?つまらんなぁ! おい、貴様。こっちにきて座れ]

 王子はもう一度、パイロットに言った。

[ちょうど4人だ。をやろう。自動運転マザーマンタに任せておけ]

 そして王子は、麻雀のようなゲームであるのボードを取り出した。


 卓を囲む4人。

 ちょうどヘルメットを外した彼らが顔を突き合わされたので――ここで容態の描写をしていこう。


 まずシール族(もちろん彼らの言葉では違うが、シールと仮称する)だ。

 シール族はアシカ(Seal)に自由な手足と、器用な指と、高度な知性を与えたような生物だ。顔はで、これにピョンと立つ耳があれば、実写版アンパンマンに「イヌ太くん」と言って出てくる事もできるはずだ。

 足は短いものの奇妙な事に人間と同じ順関節をしていて、ここは犬と違う。さきほど正座をしていたのは、こうやって後ろに関節が曲がるためである。

 身長は165cmほど。体中に毛が生えているが整髪料でも塗っているのか妙にツルツルで、ここも犬のようなモフモフの印象はない。

 また指の間にはヒレが残っていた。


 そして、王子ことオルカ族。

 こちらはその名の通り、シャチ(Orca)が同じように擬人化した生物である。会話の流れを見るに、どうやらDSL(Deep Sea Lives)の基地にオルカ族は彼しかおらず、オルカといえば種族ではなく彼を指すのが彼らの慣例のようだ。オルカ王子、とシール族が呼ぶのはその例である。

 骨格はシール族と同じで体の比率に対して少し短い順関節の足を持ち、ただし身長はシール族の倍近い実に3mもあった。ラプトリアンの男よりも巨漢である。

 なお、DSL勢力にはもう一種類…。

 エラキ曹長を襲った「キュキュキュ!」と笑う知的生物がいるが、彼らの描写は後に譲ろう。

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