第274話 転進とは敗北の粉飾類語(前編)
そして、いまジャンクションはB棟から攻撃されていた。
『犠牲を払っても
電話口のレオは、ジャンクションを守る不慣れな予備役のラプトリアンに、そう指示をした。そして電話を切るや振り返って続けざまに
『…仕方ない、装甲機兵を向かわせましょう』
と司令室付きのオペレータたちに伝えた。
それに対してザラ砲術士官長代理は、臆することなく反論する。
『いやいや。司令、我々が
大砲屋のザラの方が用兵は優れていたかもしれない。
――
と、ザラは慇懃無礼に苦笑を浮かべながら続けた。
『だって我々がC棟に下がれば、兵を一極集中で押し出せますよ。王将は端にいるべきだ』
C棟には彼らの
『いや、A棟を敵に渡す事はできません』
しかしレオは珍しく、断固と拒否した。
『いやいや。奪還すればいいではないですか。いったんはくれてやればいい』
十字の形をした基地の下の棒に相当するC棟に撤退し、ジャンクション(十字のクロスする部分)で敵を迎え撃つ作戦だ。当然の策と言える。
『電力はどうするんです?生命維持は?』
マイクロ原子力発電はA棟に4基、C棟に1基あり、A棟を失えば電力は危うくなる――という言い訳をレオはした。
『そんなの何とかなるでしょう?』
ここはザラの言い分が正しいようだ。
『どっち道、電力を食う
レオはザラを一瞥したが、もう何も言わず「議論はしない」とばかりに受話器を上げた。
ダイヤルの先は装甲機兵の誰かがいるはずのA棟の上端、月面車ドックの近傍の廊下である。(イメージとしては昔のサスペンス映画で見るような、街角の公衆電話を鳴らす形だ。電波が使えないので、こういう呼び出し方になる)
『…だそうだ』
ザラはオペレータにそういうと、椅子を反対にしてドカッと座り込んだ。
不良か子供じみた座り方だが、そういうわけではなく、サウロイド用の椅子の背もたれがラプトリアンである彼の尻尾には邪魔であるから仕方のない座り方である。
『じゃ、我々は
以前、描写したように――
司令室の床には、たたみ1.5畳ほどの基地の構造図が広げられ、その上に敵と味方を示すゴム片の駒が並べられていてるので確かにチェスのようであった。
『はい…』
オペレータは「ジャンクションが陥落したら敵に囲まれてA棟から脱出不能になるのでは」と不安そうに頷いたが、ザラはヘッチャラの様子だ。背もたれを肘掛けにして飄々としている。
『さ、
装甲機兵はもう8人しか生き残っていないが、現時点で彼らが持つ
――――――
―――――
運が良い事に、装甲機兵にレオの命令が届くのは一瞬だった。
レオが「この辺りの廊下に誰かいるはずだ」と適当に鳴らした電話が、ばっちり一人の装甲機兵の手の届く壁にかかっていたからだ。
彼らはいま、ノリス率いる5人の揚月隊と戦っている。
そこはビジネスホテルの廊下のように小部屋が連続する真っ直ぐな通路で、揚月隊も装甲機兵も、それぞれ適当な部屋に体の半分を隠しながらの牽制が続いていた。
とはいえ、サウロイド側は撃たれるばかりである。フレアボールの大火力で、いまのところ、せっかく無傷のA棟を傷つける事は許されていないからだ。
なお。
それでは何もできないではないか――と一瞬思うが、実はこれが彼らの作戦だ。
敵が持つ
弾切れになったときに、肉弾戦でケリをつけるつもりだったのだ。
そんなところに、司令から電話が来る。
『え、B棟に転進せよ…と!?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます