第272話 神風は海から吹く(後編)

 人類は知らないところで海底人の援護を受け、サウロイドの基地のB棟を制圧した。そしてそのの勢いのまま、ジャンクションホールに食らいついた。

 ジャンクションホールはその名の通り、十字の形をした月面基地のクロスする部分に相当する大広間ホールである!


 ――――――

 ―――――



「撃ちまくれ!!」

 15人のリーダーは、M-18小隊長のソン中尉が務めている。

「おそらく敵はこっちの建物(十字の形をした基地の右腕に相当するB棟)を切りすてたのだ。容赦なく火の球アレを撃ってくるぞ!少しのスキを与えるな!」

 15人の中には小隊長が3人生き残っていたが、なんとなく人徳があって押しが強いソン中尉が自然とリーダーになっていたのだ。中国語なまりの英語が武将を思わせる。


――ババババッ!

 と人類がアサルトライフルを撃てば

――ボゥゥ! ボゥゥ!

 とサウロイド達もフレアボールで応戦した。


 B棟の中央を走る大動脈的なメインの廊下で撃ち合いになっている。廊下の両脇の部屋に身を隠しつつ、一進一退の攻防が続く…!


 ソン中尉もまたリロードのために部屋に隠れた。そして彼は息を整えつつ、この攻撃の目的を仲間達に叫んだ。素晴らしい判断だ。良いリーダーとはただ命令するだけでなく、そのベネフィットを説明するものだからだ。

 揚月隊はどこを切っても良い人材にあたる。


「すまん、みんな。俺も正直、ここがどこかは分からん!」

 ソン中尉は叫ぶ。

「重要な場所なのかもしれんが、そうではないかもしれん!期待はするな。だが敵の数を減らせるならいま減らしておくべきだ!」

「おぅ!」

「もう一度いう、あのがどうかは考えるな!今はできるだけ恐竜人間を殺せ!」


 15人はそれぞれ廊下の角や小部屋を盾にして、少し身を乗り出しては何やら大きく重厚なシャッター(エアロックの片面である。サイズが大きいのでドア型ではなくシャッター型だ)を守るラプトルソルジャー達と撃ち合いを演じた。


 その扉は紛れもなく、ジャンクションホールへのエアロックである。

 だからこそサウロイド側はこの扉は絶対に死守しなければならなかったが…ここに配備されていたのは、急遽徴用された砲術士官達だった。

『あいつら、なんであんな人数が残ってるんだよ!?』

『知るか、ともかく守れ!』

B棟こっちからは敵が来ないって話だったろ?歩兵隊が守るから!』

機械恐竜テクノレックスって余っていなんだっけ!?』

『ラプトルキャノンを出せ!確か試作品があったはずだ』

『だれがキャノン装備を扱えるんだよ?』

『みんな、落ち着け!誰かが、回り込んで肉弾戦で奴らを黙らせるんだ』

『肉弾戦なんか無理だー』

『そこ!むやみに撃つな。フレアボールの充填希ガスが切れちまうぞ』

『だれか司令に連絡してくれ』

『増援求む、増援求む』

 予備役のラプトルソルジャー達は大慌てである。

 30人もいて、体格も人類を裕に上回るが練度が低い彼らはそれを活かせなかった。


――――――

―――――


 ジャンクションホールは大広間ホールの名のとおり、地上1階~地下2階までがぶち抜きになった高い天井の空間だ。(2/3が埋まった巨大サイコロをイメージして頂きたい)そんなホールは月面車整備棟に次ぐサイズの大部屋として運動場や兵器の調整など公園のように多目的に使われていた。


 なお、隣接するそれぞれの棟もまた地上1階~地下2階の三層になっているが、ジャンクションホールへのエアロックは地下2階のみにあり、地上1階と地下1階は壁で仕切られていた。つまり、たとえば地上1階をジャンクションホールに向かって歩いている場合、いったん壁にぶち当たり、そこからわざわざ地下2階に降りてからホールに入る形となるわけだ。

 これは面倒だが、気密性の担保のためにそういうワケにはいかない。

 エアロックは少ないに限るからだ。現にいまB棟に通じるエアロックが1つであるからこそ防衛が助かっていた。


 いずれにせよ、こうした理由でジャンクションホールの底面(地下2階部分)には東西南北の四つのエアロックがあった。そしていま、東側のB棟に通じるエアロックが敵の猛攻を受けている形である。その事が――


『なんですって!?』

 A棟の司令室にいるレオにも、ようやく伝わった。

『B棟が破られるはずがない!!』

 さすがのレオも驚愕を禁じえない様子だ。


――…!

――ま、負けるかもしれない…


 そう、海から吹く神風とはそういう事である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る