第267話 Five Men(前編)
PHIDIAS…という本作のタイトルは、争う七勢力の頭文字からとられている。
この七勢力のうち、初の組織的な戦闘になったのが「H」umanと「S」ouroidだった。(サウロイドはすでに「A」lienとも戦ているが、あれは海で運悪くはぐれザメに出会ったようなものだ)
そしていま――
海底人こと、「D」eep Sea Livesが秘密裏に戦闘介入を開始した。ただその戦闘行為は三つ巴ではなく、彼らの言うシナリオに従って何故か人類に味方する動きであったのだ。
――――――
海底人という思いも寄らない第三者の介入で、B棟でのゲリラ戦は人類が知らない間に人類の勝利となっていた。
B棟を守っていた
基地で暮らす全員…いや拡張予定の未来の人数を含めた全員の居住棟になっているB棟は巨大で複雑であり、それをフォローする壁に書かれた進路指示の文字も「サウロイド語」なので人類は読むことができず、さらには
そんな迷路だけがいま、海底人のおかけで戦闘もせず生き残った元気いっぱいの17人の
だがいずれ、迷路は攻略されるだろう。
十字の形をした基地の「右棒」に相当するB棟から、
一方。
十字の形をした基地の上の端、A棟の月面車
「はぁはぁ……。戦力が知りたい…。動ける者は挙手しろ」
A棟の月面車ドックの攻防戦は、レオが
「よし、5人か…」
ノリス達は生きていたのである!
「5人いれば、やりようはある…」
隊長のノリスが静かに強く頷いた。
ドックが針地獄になる寸前、数名が間一髪でエアロックの小部屋へと飛び込んでいたのだ!
「じ、自分も数えてください。6人です…」
何かの破片が足に刺さっているジェレミーも手を上げた。
拡散レールガンの300本の針は直撃しなくても(直撃した者はそもそも即死だ)それが酸素や燃料を満載した資材コンテナを爆発させることで二次、三次被害を巻き起こしたのだ。コンテナの破片が勢いよく弾け散り、別のコンテナを爆発させたり、ジェレミーがそうであるように揚月隊員を襲ったりした。
ジェレミーをはじめまだ息のあるものは6人居たが、ここは月面だ、助からないだろう。(治療するためには月面服を脱がすために、与圧された空間を確保しなければならない)
「戦闘は無理だな」
ノリスは容赦なく、きっぱりと言った。
「…くぅ…」
ジェレミーは俯いた。
彼こそこのエアロック小部屋の扉を開けた功労者だが、そこで運が尽きた形である。
「すまないが、足手間とになる。もし生き残る可能性を最大にするなら…」
ノリスは、エアロックの小部屋の壁にもたれかかるジェレミーの肩を叩いた。
平均身長2.5mのラプトリアン用にデザインされたサウロイド世界のエアロックは、小部屋といっても何か潜水艦のような感じがする。壁に触れるとそれがいかに分厚い鉄板でできているかが分かった。
「お前を置いて、我々だけで基地の制圧を目指した方がいいだろう」
「たった5人ですよ…!」
ジェレミーは静かに反駁した。
80名で月に着陸した揚月隊(じぶんたち)はついに5人になってしまった、という悲哀がこもった呟きであった。
「ああ、そうだ。しかし5人でも進むしかない」
いや。
実はそうではない――と事実を知る我々は励ましてあげたくなる。
この時点でノリス達はまだ、海底人の戦闘介入でB棟側に侵入した30名の仲間のうち17人近くが健在だという天佑を知らないのだ。(しかもその17人はラプトルソルジャーに出会わずB棟の迷路を彷徨っていただけなので酸素も体力も残弾も余力十分だ)
「隊長」
と、そこへグチャグチャに破壊されたドック内で‟死体漁り”をしていた一人が、エアロックに戻ってきた。両腕には、収穫した山盛りのニンジンかのように多数の
死んだ仲間のマガジンだろう。
「全部、300発ぐらいはありそうです。あと酸素パックとジュースも」
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