第265話 窮竜、海底人を噛む
両手は壁に、両足は床にと四肢をワイヤーで捕縛されつつも、エラキは最後の攻撃に出た!
もちろん4人の‟海底人”を全てを倒す事はできまいが、せめて目の前の膝立ちになっている一人は殺せるはずだ!ラプトリアンにとって特別な意味を持つ尻尾を無礼な手つきでいじりながら「キュキュキュ!」と耳障りな笑い声で話しかけてくるコイツだけは――!
――届け!
エラキは残された唯一の武器である
窮鼠、猫を噛むならぬ…
窮竜、海底人を噛む……である!
狙うは海底人の首元。
海底人は首が特別細いわけではないが、身長160cmほどの小柄な体格なので、ラプトリアンの大きく開く顎ならば、その首を両脇から挟み込めむようにガッチリ噛みつけるだろう!
縛り付けたエラキの前で膝立ちになっていた海底人は絶句する!
[なんです!?]
エラキの首はダチョウかコブラのようにしなやかかつ神速で迫った。普通の生き物なら反応できるスピードではなかったが……
なんと、海底人もまた驚くべき反射神経を見せた!
いや彼らの科学技術だ、もしかしたら脳の処理を強化する異次元の
ガッ!!ビリビリッ!!
首を狙った神速かつ決死の‟噛みつき攻撃”を、海底人は左腕で受け止めた。そして受け止めるや否や、彼の左手の装甲兼デバイスがスパークする!
ビリビリ…ズュバーーン!
『うぅ……!』
その電撃を顔面に受け、エラキは一瞬、前後不覚になった。
同時に、腕をかまれた海底人もただ事では無い。周囲が真空なので血が勢いよく噴き出した。彼らも赤い血である。
[なんと野蛮な!]
噛まれていない方の海底人はエラキを引き剥がし、今更もう遅いと分かっていつつ四肢を繋ぐワイヤーをさらに締め上げた。そして同時に
[止血します]
立って周囲を警戒していた仲間の一人が、噛まれた方に駆け寄って彼/彼女の左腕の脇の下に何かを注射した。
注射によって止血するという事は、彼は血管を閉塞させるか、血を一時的に固める(そして安全に溶ける)そういう薬液を持っているのだろう。
[ありがとう。大丈夫です。それより恐竜人間を…]
処置してもらいつつ、噛まれた彼/彼女は言った。
[
噛まれたことで「殺してしまえ!」と八つ当たりするかと思えばむしろ、いの一番で彼/彼女が心配したのはエラキのことであった。エラキのバイザーが開きっぱなしで真空にさらされている事を危惧しているのである。
[分かっている]
エラキのワイヤーを締め上げ終わった彼/彼女は事務的に頷きつつ今度は膝立ちになって、目玉が飛び出さんばかりに内側から膨張したエラキの真っ赤な顔を覗き込んだ。彼/彼女の4本の指はヘルメットの両側頭部をまさぐるが……
[うーむ、ヘルメットが壊れている]
バイザーを閉められない事を知ると、そのまま優しい手つきでエラキのヘルメットを脱がせた。
[よし、バブルを使う]
『…な…んだ……!?』
ちょうどここで意識が戻ったエラキは息が詰まりつつも、その血管が膨張して充血する目で不思議な光景を見た。
彼/彼女のヘルメットの口のような部分(海底人のヘルメットは土偶に似ている。あるいは「ガンダム」のザクのようだ)から、エラキの顔に向かって‟泡”が放出されたのである。
『うぷ…ぬ…!』
その泡はシャボン玉のような透明な薄膜で、エラキの顔を包むまでは脆弱そうに揺らいでいたが、数秒も経つとビーチボールのように硬質化した。アクリルのような見た目だがブルンブルンと柔らかい。しかし、内側からの圧(エラキの首から下の月面服が、ヘルメットが繋がれていると思って放出し続けている空気)によってパンパンに膨れあがっていいて、どうもちょっとやそっとで破れそうにはなかった。
不思議な素材である。
『かはぁ!はぁ…はぁ! こ、これは?』
エラキにとって思いもしないことだった。
気圧と酸素が戻って、彼は咳き込みつつ正気に戻った。
[バブルで、しばらくは持つでしょう]
エラキに噛まれた彼/彼女は、腕の応急処置を受けながら言った。攻撃された事への怒りは全くないようで、言葉こそ分からなかったが、それが穏やかな声色であることはエラキにも分かった。
キュキュキュという耳障りの笑い方もしない…。報道番組に出るときのお笑い芸人のような、そんな気分の切り替え方が彼らの流儀なのかもしれない。
[アナタは死んではいけない。我々のシナリオによれば]
しかし、その穏やかな口調が逆に不気味である。「血に騙されてはいけないぞ。こいつらは
[残念ながら、ほかの
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