第250話 月面車ドックの攻防戦(中編)
1つの
学校の体育館ほどの大きさのドックは建設中の月面基地において臨時で倉庫として使わているようでその中には月面車だけでなく、いくつもの
競技用の「雪合戦」のようにお互いが障害物を盾にして膠着状態になっている形だ。
数は20対6。
人類側が有利ではあったが、人ならざる者が造った未知の建物の中で遮二無二うごき回るわけにもいかなかった。打って出るには何かの策が必要な状況である。
――――――
その策とやらが思いついた隊長のノリスは、各小隊から手榴弾を集める事にした。
次元跳躍孔の影響で無線は通じないので、ハンドサインにより「手榴弾を分けてくれ」と彼が示すと、それぞれ月面車やコンテナを盾に息を潜めている小隊から、まるでバーテンダーがウィスキーのショットグラスを滑らせるように手榴弾が送られてきた。
こうして、ハンドサインに気づいたM-2、M-4、M-5の各小隊から分けてもらい計10発が集まった。
宇宙用の特殊なものとはいえ、この量ならかなり破壊力を発揮するはずだ。
「よし、いいか。ジェレミー…!」
ノリスは隣の部下の肩をグワッと掴んで、燃えるように生気溢れる瞳で説明した。
サウロイドの城郭に侵入した彼らは、いま全人類の突端にいるのだ。やることなすことが前人未踏である。喜望峰を回ったときのバルトロメウ・ディアスも同じような目をしていたに違いない。
「お前にこれを託す。まずこれを合体させろ」
いつ敵がこの均衡(数に劣る装甲機兵も様子見をしている状態だ。レオの指示を待って戦力を温存したがっているのだろう)を破るかが分からないので早口である。
「は、はい。80秒ほどで…」
「一分でやれ。そうしたら、それを持ってマニーと合流しろ。M-16の生き残りだ」
ノリスは視線を使って、サウロイドの月面車のタイヤに寄りかかってグッタリしているマニーを指さした。
前章で描写した通り、彼は基地正面を迂回して防備の薄いB棟に侵入した部隊の一人である。彼はかなりの幸運で迷路のようなB棟を脱してA棟に至ってこのドックのゲートを開き、本隊を基地に招き入れて戦局を一変させた立役者であるが、その攻防に際して相棒を失い、自身も負傷してしまったのであった。
フィリピン人の彼が信奉するバトハラ神の恩寵も、さすがにサウロイドの月面基地の中までは届かなかったということか。
「マニーと!?」
「はやくかかれ」
ええい、と声にならない不平を垂れながらジェレミーと呼ばれたM-1小隊の彼は手榴弾の
この専用のハイテク手榴弾は宇宙で使用できる事はもちろん、あらゆる拡張性(爆発の威力を下げる、二段階で爆発するなどだ)を持ち、その中の合体機能は軍人では思いつかない希有なもので特筆に価する。
これはNASAの発案により追加されたもので、文字通り複数の手榴弾を合体させて一つの巨大な爆弾に仕立てる事ができる機能だ。「何かしらの大爆発が必要な事態も起き得るはずだ」というNASAの経験に基づいて追加されたもので、本来は宇宙船やスペースステーション、デブリ、小惑星の規模に対して使う想定の機能である。
さすがの「もしも…」の大辞典のようなNASAの用意周到さでも、まさかサウロイドの月面基地で使われるとは思っていなかっただろう。
「くそっ、手袋をしてなければ……」
ジェレミーは夢中になってプラモデルを作る子供のように床を机にして手榴弾を合体させていく。と――そのときだった。
バッ!!
照明を遮ったからだろう、巨大な影が動いたかと思うと業を煮やした2人の装甲機兵が、屋根を渡る忍者のようにビョンビョンとコンテナや月面車の上を跳びながら息を潜めるネズミ探しを始めたのである。
戦闘はすぐに起きた。
装甲機兵の一人がまさに着地したコンテナの陰に3人の揚月隊員が隠れていて、そこで小競り合いが発生したのだ。
「まずい!」
「撃て!撃て!」
バババッ!
3人の揚月隊員はアサルトライフルを斉射しながら、そのコンテナを飛び出し(石をどかされたダンゴムシのようだ)次に身を隠せる場所を求めて散開した。
一方、装甲騎兵のサウロイドの方も反射的に身を退いたため、アサルトライフルの数発を浴びただけで致命傷にならなかった。それどころか、むしろそのサウロイドは逆上して、コンテナを飛び降りるや否や驚くべき怪力でもって、そのコンテナを蹴り飛ばしたのである!
もちろん八つ当たりではない。
名探偵コナンのように、攻撃のためにコンテナを蹴ったのだ!
「な、なにぃ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます