第247話 破られた城門

 月面に墜落しようとしていたアルテミス級二番艦「デイビッド」では、何か超常的な事が起きようとしていた。どうやらふねの周囲を何かの光が並走しているといるようだ。

 まるでUFOだ…。


 しかしそのを目撃したの艦載コンピュータのSALだけで、すでに棺桶のような脱出カプセルに乗り込んでいる人類クルーはそれを目にすることはできず、ただSALの口から妖しい預言を聞かされるだけであった!


「クルーの皆さん、減速は不要になります。彼らはにえを受け取り、代わりに皆さんを救済します」


――贄!?


 クルーは大きく動揺した。SALが言っている内容も分からなければ、彼女が人工物AIとしての鎖を破って、急速に進化している事を悟ったからだ。

「待て!生け贄とは何だSAL!?」

「ふふふ…贄は私。では皆さん、さようなら」


――みなさん、さようなら


 と、次の瞬間!

 二番艦は青白い光に包まれたのだった!


――――――

―――――

――――


 その光は静かの海山脈クレーターを隔てたサウロイドの基地でも観測された。

『ティファニー山の向こうで何かが輝きました!強烈です』

『ほう、見せろ』

 砲戦を終えて砲術士官長代理のザラは、その光の映像を見たがった。

『青白いな。これはチェレンコフ光じゃないのか…?』

 一方、司令のレオは基地の見取り図を睨みながら、そんなザラの言葉を背中で聞いて苦笑した。

『まさか!いまさら核兵器など意味がないでしょう』

 チェレンコフ光の原理自体は核兵器とは関係がないが、人類やサウロイドの文明レベルにおいて戦場でそれが発生するなら場合、それは十中八九、核爆発に決まっていた。

『しかし、司令。映像を見ては?』

『ははは』

 礼節を重んじるレオが、相手の言葉を端っから相手にしないという苦笑するのは珍しい。いや信じたくないからこそ苦笑だろう。それに事実として


『それより状況は?押されているのですね?』

『はい…。装甲機兵(Tecアーマー)は8名が健在ですが押されています。性能を発揮できません』

『まさかこんなことになるとは…。それで敵は?』

『車両ドックに殺到しているようです』


 戦況をアナログで示す基地の見取り図(ゲーム盤)上では、敵の駒を示すサイコロ大の紫の砂消しゴムがA棟のばらまかれていた。

 そう、あの堅守を誇っていたA棟の正面が破られたのである。

 (我々はその立役者が、M-16小隊の生き残りの二人のフィリピン人のであることを知っている。バトハラ様のお導きか、彼らは任務を達成し内側からA棟の正面ゲートを開いて本隊を招き入れたのだ)


 A棟の正面には基地内で唯一、月面車などの入出庫ができる大ゲートが設けられ、そのゲートは直接、エアロックを兼ねる密閉式の車両基地(ドック)の蓋になっていた。

 ドック全体がエアロックなので、車両の整備に際してはドック内を与圧する事もできるし、車が出動するときは部屋の一辺の壁が城門のようにグワッと降りて、月面と地続きになる形式である。(ガンダムに出てくるホワイトベースの腕みたいな……といえば分かる人には分かり易いかもしれない)


 拡張中の月面基地においてこのドックは資材置き場も兼ねており、内部は3台の月面車だけでなく、1立方メートルほどの資材箱が無数に陳列されているため視界こそ開けていないが、サイズは学校の体育館ほどもあり、一つの部屋としては月面基地でもっとも広い床面積を誇っていた。そこが――


 いま主戦場になっていた。


『ドック内部で封殺する必要がありますね…』

 司令室付きのオペレータの一人が言った。

 こういう当たり前の指摘をして評価される事はない。本当にその指摘が必要だと思ったのなら愚かだし、場の空気に耐えかねて無用な指摘をしたらならやはり愚かで、どちらにせよ評価を落とすだけだ。

『まぁ、そうですね』

 レオは紳士なので「わかっているよ!」と八つ当たりはしないが、にべもなく相槌だけして受話器をとった。

『状況を知りたい。いや、そうじゃない…!』

 レオは自分のセリフを自分で否定すると、右手で受話器をあげながら反対の手でオペレータ達を指さし、指示をした。

『ドックに接続する3つのエアロックの前を固めましょう。各分隊に伝えてください!』

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