第231話 お人好しな恐竜人間

 MMECレールガン砲台の制圧は、戦闘に慣れている人類からすれば造作もない事だった。

 だいたい一辺が8mの立方体の砲台の中には、高速道路の料金所ほどの小さな管制室があり、そこにいは2名の砲術士官が駐在していたが――


「…いえ、。壁の弱そうなところ…ドアか点検口か何かをグレネードで破ったら彼らは即死でした。室内のため宇宙服を着ていなかったようですから」

 そう、戦闘になるまでもなく倒せてしまったのだ。

 マッハ20のレールガンを発射する砲台がこの極小サイズというのは驚きだったが、それ以上に驚きなのはこの呆気ない制圧劇の方である。ティファニー山で彼らの機械恐竜テクノレックスに襲撃された揚月隊は「次はどんな怪物が襲ってくるだろう」とビクビクしていたのに、完全に拍子抜けしてしまった。


 メルケル中尉は続けた。

「いえ、宇宙服らしきものはありました。基地からこの砲台に移動してくる道中に着ていたものでしょう。しかし武器はナイフ一本も見当たらない。月だと思って油断していたんでしょうかね」


 そんなメルケルの報告を隣で聞いている小隊長は、月の空に異様な鮮明さで張り付いている白鳥座を見上げながら、ヘルメットを被っているせいでタバコを吹かすのは無理なので代わりに

 腕のコンソールで「給水」を選ぶと、ヘルメットの内壁に備え付けられた短いストローがせり出してきて口で咥える事ができるのである。揚月隊の月面服は30時間の連続使用に耐える設計であり、大便は我慢することが推奨されるが小便と水分(超高カロリードリンク)補給は可能になっている。



――不用心なヤツらだ。体はでかいが大した事がない。

 異様に明るいデネブを見上げながら、小隊長はそう思った。


 しかし、そうではない。

 大した事がないのではなく彼らは戦争がヘタなのだ。

 以前述べたように、世界人口が3億人しかいないサウロイドおよびラプトリアンの地球では戦争がほとんど無いのである。


 全ての戦争は ――語弊を畏れず単純に言うと―― 文明レベルに対して人口が超過したときに起きる。まるでジョッキにビールを注ぐように、文明レベルというジョッキに注ぎ込める人口は決まっていて、それが溢れたときに戦争が起きるのだ。


 3億人という人口は、中世の文明レベルでは戦争が起きる人数だが、現行の人類とほぼ同等の文明レベル(船舶、飛行機、電気、石油、原子力、畜産、農業…etc)を持っているサウロイド世界では余裕で養える人口だ。

 世界人口が3億人しかいないならば、フロリダ半島、オーストラリアの東海岸、イベリア半島、インドに日本、全員が地政学的に快適な場所に住めばいいという事になる。どんなに火力発電で石炭を燃やそうが、マグロを乱獲しようが、森林を伐採しようが、3億人ではのだ。

 いや、ともかく――。


「ともかく…」

 埒が明かない、と小隊長は口を開いた。メルケル中尉のお喋りはもう結構だ。

「我々も前線に復帰します。どこに合流すればいいか指示を」

 そう言って、彼がヘルメット内のストローを収納しながら、獲物を狙う猛禽類のように遠方の敵基地を睨み付けた、ちょうどそのときだ。

 ボゥッ!

 壁の一つから爆煙が昇った。

 おそらく、このM-3小隊のような別働隊が基地の防備が手薄なエアロックを見つけて、それをグレネードで吹き飛ばしたに違いない。

「ああ…。やっぱり指示は結構です。いまを見つけましたので」

 彼はハゲタカのようにニヤリと危うい笑みを浮かべる。冷静なのか戦闘狂なのか分からない男である。

「もし主戦場そっちが拮抗しているというなら、M-3小隊は柔軟独自、自律的に働いてみせましょう」


 月面攻城戦は、文字通り火急的に進行していた。


 ――――――

 ―――――


 こうして基地のエアロックが破られたのと同じ頃。

 エースとの決闘に破れてサウロイドに捕らえられたがあった。彼はいま敵のサンプルとして研究室に搬送され、全身をガッチリとベッドに拘束されている状態であった――!

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