第223話 フルブースト

 サウロイドは波状攻撃に切り替えた!

 12基あるMMECレールガン -Multi Mass Electromagnetic Cannon- 砲台のうち2基は破壊されてしまったが、残された健在な10基で順々に砲撃する算段である。


 確かに1発のレールガンでは、じんるいの星の舟が持つ堅牢な船首シールドを破る事はできまいが――それは着弾したときの話。敵が船首シールドを正面に構え直すスキを与えないような波状攻撃ならば、いずれ着弾し……悪い角度ならば1発のレールガンで舟を貫けるはずだ。

 それが、この作戦の骨子だった。


――――――

―――――


「砲撃来ます!」

「総員、耐ショック体勢!」


――ギャルルル!!


 まず最初の一本の鉄心レールガン二番艦デイビッドを襲った。

 マッハ20、長さ1.5mで35kgの鉄心は、シロナガスクジラの頭のように滑らかなアルテミス級戦艦の船首シールドをぶつかり、その表面を削りつつ逸れていった。


「防御成功!」

「シールド面の健常率93%」

「すでに計11発も受けて、なお…」

「ええ、よく耐えてくれています。まだいけます!」

 二番艦デイビッドのブリッジは一瞬の安堵が広がった――と、次の瞬間だ。


――ガッ!ギャルルル!!


 間髪おかず、二発目の鉄心が襲いかかった。今度の揺れは別次元に大きかった!


「くぅ…!!」

 若干の安堵が支配したブリッジを一転させた。

「なんだ!? 大砲が隠されていたのか!?」

 揺れが大きかったので、ボーマンは「もっと口径が大きい砲台があったのか」と考えたのだ。――しかしそうではない!


「いえ、同口径の鉄心と思われます!」

ですよ。姿勢が乱さ――!」

 真之が、少し八つ当たりするような口調でボーマンに説明しようとしたその刹那であった。


――ガッ!ギャルルル!!


 またまた激震が走って、後部座席のボーマンを振り返っていた真之は自分の前のコンソールに叩きつけられた。今度はさらに大きい揺れだったのだ。

「こ、これは波状攻撃だわ!」

 真之と同じようにコンソールに突っ伏せながらアニィが叫んだ。波状攻撃これが意味するところは、つまり――


!!」

 敵に、アルテミス級が持つ宇宙船に似つかわしくない船首クチバシの秘密がバレたという事だ。宇宙船なのに空気抵抗を鑑みたかのように尖った船首は真正面からの攻撃にのみ硬度を発揮して、逆に少しでも角度があればむしろテコの原理で揺れは大きくなる。…いやそれより簡単に折れてしまうだろう!


「入射角は!?」

「直近の鉄心は約1度42分(※)で衝突したもよう!」

  ※1分とは角度の値で、1度の60分の1。


 1.7度というと日常生活でいえば、ほぼ真正面から弾が当たったと見てよいが、マッハ20の世界ではかなりのズレだ。このままでは船首か、船首と船体が接合している‟首”が折れてしまうだろう。


最大推力フルブーストだ!姿勢を――!!」

「次、来ます!!」


 ガッ!ギャルルル!!


「……っ!」

 人間達はもう誰も被弾に関して台詞は無かったので、艦のフレームが軋む音だけがブリッジに響いた。その音は捕鯨船のハープーンガンで脊髄を撃たれたクジラのように悲痛なものだった…!

「くっ…そ…!」

 その震動が収まるや、真之は言いかけた言葉の続きを叫ぶ。

「SAL!フルブーストだ!姿勢を戻せ」

「私が?」

 スーパーコンピュータのSALだけは人間達と違って悲痛も恐怖も緊張もなく、まるで「室温を上げてくれ」と頼まれたぐらいの声色で訊き返した。

「全権を委任する!!人間より早くやれるだろう」

「まぁ、それはもちろん」

「敵の基地に船首を向けるんだ!」

承知ラジャー

 ここで、さらにボーマンは補足した。言い換えればそれはAIにとっての「追加条件」の入力である。

「SAL、使!」

「はい」

「帰りは気にするな!少しでも長く耐えてくれればそれでいい!」

「はい、善処します」

 SALは人間達とは対照的に笑ってしまうほどの平常運転である。

 彼女にとってはおそらくは「合成フードをエスニック風に調味してくれ」と指示された方が難易度が高い事なのだろう。

「では全エンジン、フルブースト」

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