第224話 三番艦(ソロモン)の再起動
アルテミス級二番艦「デイビッド」は、
マッハ20で襲ってくるレールガンを回避する術はなく、むしろ彼らが生き残る唯一の手段は逃げるのではなく正面を向くことだった。アルテミス級ご自慢の、シロナガスクジラの頭のような流麗な形をした
そのためには波状攻撃で何度、姿勢を崩されようとも風見鶏のようにレールガンを睨みつけ続けなければならない――!
「SAL、全権を委任する。姿勢制御だ!」
真之は本来、補助や提案を担う艦載スーパーコンピュータのSALに全てを託した。
「敵の基地に船首を向けるんだ!」
「了解。では全エンジン、フルブースト」
SALは「お風呂の設定温度を41度に変更しました」ぐらいの軽い口調で答えた。彼女にとっては、人間との会話より宇宙物理の方が簡単なのだろう。
ここで少し
いま、レールガンの波状攻撃を受けているこの
宇宙戦艦と聞くと、ガンダムやヤマトのそれを想起してしまう我々はどうしても船の腹を月面に向けて飛行機のように飛んでいると想像してしまう。
しかし空気抵抗が無い宇宙空間ではそういう制約はない。どの向きで飛んでいてもスピードは変わらないのだ。
だから今、両艦は逆立ちしてサウロイドの制空圏を横切っている。クジラでいうと頭を海底に向けている姿勢だ。
こんな姿勢をしているのは前述の通り、地上から飛んでくるレールガンに対して堅牢な
時計の中心が月で、時計の針がアルテミスである。
…しかし、それもおしまいだ。
まるで人類側の予定が狂っていく事を暗喩するかのように、規則正しかった時計運動は乱れっていた。
ガンッ!!ギャルルル!
6発目のレールガンを受けたとき、二番艦の法線(月の中心を原点として放射状に引いた線)からのズレは3度を超えた。
撃たれる度に姿勢を戻そうとするが、なにぶんサウロイド達のレールガンの装填が早すぎるのだ。地表から軌道上を撃つ兵器としては破格の連射速度である。
「もう船首が持ちません!」
「というより!計算上、2度のズレでも当たり所が悪ければダメですし!」
オペレータのマイルズは綺麗に剃り上げた褐色の頭を両手で抱えている。
「そんな事、計算しなくていい!」
「SAL、
本来の操艦の主である副艦長のアニィも、もう「神様、仏様、SAL様」の状態だ。
「やっています」
「何かを捨ててもいい。間に合わんのか!?」
ボーマンも慌てているが、SALは笑ってしまうぐらいに冷静に応えた。
「ええ、間に合いませんね」
――とそんなときに、別の神が微笑んだ。
先ほどの一斉攻撃で大ダメージを受け、
「こちら三番艦。援護はいらんかね」
おお!という歓声が二番艦のブリッジに巻き起こった。
その声は三番艦の艦長のヨーコである。その酒焼けのハスキーボイスが何と頼もしい事か。
「そちらが的になってくれていたおかげで命拾いした。復旧の時間を稼げたぞ」
「撃てるのか?」
「SALの応急アプリケーションでな。現段階で砲塔だけは動く」
「……っ!」
真之が言葉に詰まったのは「もし敵が三番艦にターゲットを変えれば間違いなく撃沈させられる」と分かったからだ。なにせ固い
「迷っている暇はないぞ、真之」
しかしヨーコは肝が据わっていた。真之の逡巡を察して喝を入れる。
「ここが勝負所だ。真之!」
「よぉし!ヨーコ!撃ちまくれ」
と、ここで口を開いたのはボーマンだった。珍しくも直接指示を出す。
「もう精度はいい。揚月隊が基地に取り付く頃だ。我々の任務は敵の気を引き続ける事だけだ!」
「そ、その揚月隊に当たるかもですが?」
ヨーコは辛うじて語尾だけは敬語にしつつも、半分呆れたように笑いながら応えた。
「構わん。その確率は低い」
「はは、了解。では盛大に撃ちまくります」
「撃ちまくれ!」
こうして三番艦の主砲の120mmが月を向いて盛大に火を噴く事となった。
しかも今度は連射である。
ドドン!ドドン!
それは約10秒に2発ほどのペースで、威力はともかく敵のレールガンの波状攻撃と同等の迫力は演じる事が出来ていた。
しかし船の自重に対して主砲は重く、本当の船と違って周りに体を支えてくれる「海」が無いので発射の
しまうが、それも気にせずに三番艦は撃ちまくった!
船体が回転した分は砲塔を回転させて出来うる限りの補正し、ともかくサウロイドの基地を照準に収め続けてガムシャラに撃ったのだ。その精度は酷いもので半径1kmほどに着弾はバラけてしまったが(ヨーコの危惧通り、揚月隊を同士討ちしてもおかしくない)サウロイド達を慌てさせるには十分な効果があったのも確かである。
こうして竜と猿のPK戦は、
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