第222話 波状攻撃!
一般に男で体色(腕などの羽毛)が青いサウロイドはナルシストであると言うが、砲術士官長代理のザラ中佐はまさにその典型だった。彼は自分が一番頭が良いと思っているタイプで、それに加えて冷血漢の性格も帯びていて――まぁ簡単に言うと嫌な奴である。
そんな彼も、若き月面司令のレオの推理には素直に舌を巻いた。
――敵の星の舟はプテロケラサウルス(彼らの世界の翼竜)のような、鋭利な
――その船首をレールガンの弾道にピッタリ正対させて受け流しているのだ。
――しかし逆にいえば、そんな形の船首は真正面を向いていなければ硬度は発揮できないだろう。つまり……
『わかりましたよ…司令。ここは波状攻撃です』
レオのそんな
『一斉射の力押しではなく、一発ずつ断続的に撃つ事で相手の
レオは、ザラの目を見つめて頷くと
『ええ、その通りです。それなのです。ザラ中佐』
まるで古い洋書の翻訳版のような口調で相槌した。
『作戦の変更を許可します』
はい、と言う代わりに頭を下げたザラは、バッと配下の砲術士官達に向き直って声色を変えた。
『副長。充電の方式を変えるぞ』
ここからはザラの手腕に委ねられる。
『はっ!』
『まず充電中の8~12番をカット。6番に注力。全力充電だ』
『了解!6番を全力充電開始』
『変電装置接続……
『切り替え完了。充電開始』
ザラは報告に頷き、そして副長に補足した。
『よし。6番が終わったら8番だ。(7番は破壊されているからだ)順々に電力を回していくんだ』
『1番から5番はいかに!? すでに発射可能です!』
『待て!俺がコールする』
ザラは6番の充電状況を表示するモニターを注視しつつ、右手を掲げた。これでこそ「砲術士官の長だ!」というジェスチャーである。副長任せで、つまらなそうにしていた彼はそこにはいない。さすがの冷血漢も、この戦いの土壇場では
『いくぞ1番!』
ザラは右手を掲げたまま、指揮者のように1番担当のオペレータに視線を送った。
『発射まで…5、4、3、2、1…撃て!』
『発射!!』
『続けて2番! 5、4、3、2、1…撃て!』
『発射!!』
『次!3番。 5、4、3…』
こうして砲兵達が「長篠の戦い」を演じている間、それとは別に司令室付きの管制官がレオに報告した。
『1番着弾!……が!防がれました』
砲術部の所属でなく、
『司令、やはり…!?』
『いえ良いのです。これで良いのです。ザラ中佐の言う通り、続けていれば突き崩せます。それより…』
レオは司令室付きの管制官とオペレータを勇気づけつつ話題を変えた。彼としては、そんな事よりもっと気がかりな事があったのだ。
『それより…敵の歩兵がそろそろ地平線から姿を見せるはずです。星の舟は砲兵に任せて、アナタ達はそちらの警戒を』
『りょ…了解!』
『防衛隊の状況を知りたい。エラキ歩兵長に繋いでください』
そしてレオは砲兵の奮戦を見ながら、受話器をとった。
――――――
―――――
――――
「レールガン来ます! 標的は本艦です!」
「総員、耐ショック体勢!」
「今度は一本だけ…!? くぅっ!!」
――ギャルルル!!
宇宙ではそんな音はしないが、1番砲台が放った鉄心が
鉄心は、クジラの鼻先のように滑らかなシールドの曲面に誘われるまま運動方向を逸らす……のだが、そこには摩擦も生じるので「ギャルルル!」と削るようにして弾かれるわけである。
シールドは摩擦を減らすためにミクロン単位で滑らかに成型されていたが、仮に摩擦がゼロでも強烈な圧力がかかるのは違いない。鉄心がシールドの金属原子に
つまり「ギャルルル!」は火花ではなく、プラズマの光だ。
「くぅ…防御成功!」
「シールド表面の
「合計、11発受けてなお…」
「よく耐えてくれています。正面から受ける分にはまだいけます!」
鉄心が削った船首には線状痕が出来、その傷からは乾燥した瘡蓋のようにバラバラとダイヤモンドがこぼれ落ちた。地球帰還時の耐熱加工のために塗布されたフラーレン(炭素)が圧力で変質したダイヤである。――と、次の瞬間だ。
ガッ!
ギャルルル!!
間髪おかず、二発目の鉄心が襲いかかった。今度の揺れは特に大きい!
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