第221話 サウロイドの世界でもリンゴは落ちる(後編)
レオは答えに近づいていた。
その答えが、
――――――
―――――
レオは管制官の回答に対し、思わずオウム返ししてしまう。
『たった3mですって…?』
『は、はい…』
管制官は、衛星軌道の敵の舟がレールガンを受けた(と思われるスパーク)の前と後での位置を慎重に、見比べながら応えた。
『やはり映像上は3mです』
『マッハ20の
――鉄心は一本、重さ35kgもあるんだぞ…!?
『すると敵艦の重量を100トンとした場合、鉄心が与えた衝撃はどの程度と見積もれますか?』
『それは、ほとんど…』
と、管制官が言いかけたとき「ズズン!」という粗暴な震動が司令室を揺らした。
例の4番砲台を狙った人類の120mm榴弾砲が着弾したのだろう!
震動の強度はレールガン発射時のそれに比べてずっと小さいが、その震動はどこか凶暴な雰囲気がある。ハウルの動く城の中でのカルシファーが「爆弾の火は嫌いさ。アイツらには礼儀と言うものが無いからね」と言っていたが、まさにそれだ。
筆者は最近、ルパンのような足をした見るからに筋力不足のホスト風の男達が、何故か郵便ポストを蹴って遊んでいるのを夜道で見たことがあるが、まぁそういう震動だった。
『被害報告!』
ズズンと揺れたとみるや、砲術士官副長が叫んだ。
『着弾しました!』
『直撃かは不明!しかし――』
『有効打です。4番、信号消失!』
『分かっている。送電を止めろ。救護班を送れ』
ここは副長が処理してくれた。
彼がレオに対する情報の防波堤になってくれたので、レオは管制官との会話を続ける事ができたのである。
レオは怯える管制官の肩をゆすって、話題を元に戻した。
『それで、ほとんど、なんです?』
『け、計算しますと…鉄心の持つ運動エネルギーは56億6440万ジュール(質量×速度の二乗÷2……のエネルギー公式に鉄心の質量35kgとマッハ20を代入するとこんな化け物のような数字になる)のほとんど……おそらく96%のエネルギーは敵艦に受け取られていないことになります』
いかにも理系な言い方である。
『それはつまり受け流されている、という事ですね…!』
『はい、そうです。撃ち落とされているのではなく、当たっているんです。しかし4%しか運動エネルギーを与えられていない』
ここで、隣で話を聞いていた砲術士官長代理のザラが口を開いた。
『なんという事だ…。私としたことが、すっかり何かで防がれているのかと思っていた。ヤツらの歩兵がそうしているから、レールガンを魔法で逸らしているのかと思ったんだ。しかしそうではなかったのですね、司令』
『ええ、完全な失策です…!』
レオは思わず苦笑で息が漏れてしまったが、まだ事態が呑み込めないという副長は、各砲台の充電中という
『どういうことです?』
『だから。ヤツら、ひたすらに硬い盾で受け流しているだけだ。ごくシンプルに。単純明快だ』
『!?』
ザラの説明ではまだ分からないという表情の副長代理に、今度はレオが補足してやった。
『おそらくはプテロケラサウルス(彼らの世界の翼竜)の鋭利なクチバシのように尖った盾を、向かってくるレールガンの射線に完璧に一致させる事で、逸らしているんです…!』
レオのこの予想は正解だったが、副長はまだ信じられない。
『そんな精度で盾を向ける事ができますか…!?マッハ20で向かってくるレールガンに!』
鋭利に尖った盾というのは横方向からの衝撃には弱いはずだから、入射角ゼロでピッタリと真正面に向ける必要があるだろう――と副長は指摘したわけだ。この指摘はなかなか鋭い。しかし
『いや…』
その指摘にザラは反論した。まるで自分に説明するような口調で彼は言う。
『いや、撃ってくる場所は分かっているのだから難しくはないはずだ。そう…星の舟を造ってしまう
ザラの説明にレオも同意する。
『私もそう思いますね。彼らの科学技術は我々より上とみるべきです。が、しかし――』
『しかし、勝てなくはない…!』
ザラは目を閉じてニヤリと微笑んだ後、改まって全身をレオに向き直った。正対して足を揃えるというのは人類と共通の作戦を伝える際の段取りである。
『司令』
その口調は相変わらず不愛想で偉そうだが、レオと出会った当初の嘲弄するような雰囲気は無くなっている。レオを認めたという事だろう。
『砲術部として作戦の変更を提案します。一斉射ではなく波状攻撃です』
『ええ、その通りです。それなのです。ザラ中佐』
ザラの提案に対し、レオはまるでコナン・ドイルが
そうだ――。
今までの敗因(防御された原因)は一斉射に
そうではなく、
敵の星の舟はの鋭く尖った
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