第219話 傷跡はブルーダイヤモンド
月の超低空軌道を併進する2隻のアルテミス級の一方、
――耐えろよ…!!
二番艦の艦長である真之が
ババッバババッ!!
その7連のフラッシュに真之は目を細めた。
「うっ…!」
真之だけではない。どうしてか直感的に「迫ってくるレールガンの弾が見える」という気がしていたクルー達は、まさに青天の霹靂のような着弾とその閃光に驚いてしまったのだ。
レールガンの威力のせいで、化学(科学ではないケミカルのほうだ)文明が発展している我々はどうしても「破壊力に優れた砲撃 =
しかしレールガンは爆発しない。
ただただ神速という質量兵器だ。破壊力の本質は投石機と変わらず、飛翔しているときにブースターの噴煙を残したりしないのだ。
「くそ、そりゃあ見えないか!」
真之は恥ずかさを紛らわすように声を大にする。
「マイルズ!双眼鏡を投げてくれ!」
「目視が一番ですか!」
オペレータのマイルズは同意しながら、艦長席に形骸的に置かれている双眼鏡をとって真之の方へ流してやった。
「バカめ」真之は双眼鏡を受け取りながら自分を叱責する。「レールガンなんだ。光っているわけないだろう」
いや、これも真之は間違っている。
たとえレールガンが、ロケット砲のように火を帯びていたとしても、弾速が早すぎて見えなかったはずだ。
まず二艦の船間距離は、宇宙としては驚異的に近く900m(敵を攪乱するために密集隊形を敷いているからだ)とであった。
このとき人間の視野角を60度と近似すれば、900m先の対象に焦点を合わせたときにその周りに見える範囲(半径)は900÷√3=530mほどとなる。
一方、サウロイドのレールガンは月の重力による減速をものともせず、宇宙に到達したときに尚もマッハ20を誇るので、530mなど0.1秒もかからず走破してしまう。
つまりもしレールガンが光っていたとしても、視野に入ってから視野の中央の三番艦に当たるまで0.1秒しかないのだ。
――文字通り目にも止まらない速さである。
「アニィ、反撃を急げよ! 真之、三番艦はどうか!?」
ボーマンが窓付近で双眼鏡を構える真之に尋ねた。
「不明!…形状は維持しています!」
「あんなに光るものか!?…敵も榴弾(爆発する弾)を使ったと思うか?」
ブリッジの中で唯一、科学知識に乏しいボーマンが暇そうにしているオペレータの一人に訊ねた。
「いや、プラズマでしょう!変わらずレールガンです」
原子同士の手の繋ぎ方は強固(金属結合という)であり、簡単に変質する(燃えたり、形態を変える)事はないはずだが、あまりの衝撃に行き場を失ったエネルギーは原子の中に染み入り、それでも飽き足らず結合の鎖を蹴破るようにプラズマ化させたのだろう。まるでヒステリーを起こした子供が結合されたプラレールを破壊するようにだ。
またプラズマだけではない。
船首の表面の耐熱用の
「アニィ、反撃を急いでくれ!」
真之は窓の外の三番艦を双眼鏡で見分しながら、アニィをせかした。
「いま追撃されたら三番艦は沈むぞ!」
三番艦は制御系に問題が生じたのだろう、艦体の各所の電灯とブースターを明滅させながら力無さげに自転している。その動きはまるで岩に頭をぶつけて気絶したマッコウクジラのようでマンガ的(コミカル)だったが、事態はそんな悠長ではない。
「間に合わんなら精度は構わん。けん制としても撃たねば!」
さすがのボーマンも慌てている。
「いえ!
管制官が応えた。敵の砲台は完全にロックオンしている、と。
「あとは副長の装填作業が……」
「アヌシュカぁぁ!」
真之は、アニィと呼ばず本名で呼んで急かした。
「はいはいはい!」
アニィはカタカタとキーボードを叩きながら半ギレで応える。彼女は、先の被弾によって生じた射撃アプリケーションのエラーを回避する臨時コードを書いているのだ。
「いま撃てますよぉ……とっ!」
アニィは一瞬手を止めてコンパイルが通るの待ったのち、最後に勢いよくENTERを叩いた。
「どうぞ!」
「カウント不要!発射!!」
ドドーン!
今度は二番艦から、120mm砲が発射された!
竜と猿のPK戦は削り合いの様相を呈している――。
しかしこのとき、猿が放った陸上部隊は竜の基地へと残り1kmまで迫っていた…!
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