第218話 竜と猿のPK戦(後編)
12基の
サウロイドとしては、併進するもう一隻の宇宙戦艦(こっちが
『各個撃破でいく。全砲門、今度は乙を狙え』
彼らが乙と呼称する三番艦を狙う事にしたようだ。
砲術士官長代理のザラがそう宣言すると、副長以下は議論もないままその決定に従った。反駁している時間などもう無いからだ。
『6番から9番砲台、目標を甲から乙に変更!』
『了解!』
『充電率、80%を突破』
『弾体の装填、問題なし』
『カウントダウンを開始。10…9…8…』
司令のレオも砲兵達の動きに異論はなかった。
むしろ大いに同意する。タァ少佐の言うとおり相手が格上だというなら戦力を集中して着実な一点突破を仕掛けるのが定石だからだ。だからこそ彼は思う……
『……』
――もっと確実な方法はないのか…!
『3…2…1…準備完了』
『発し――』
『中止!中止してください!』
ザラが「発射」と言いかけたとき、レオが割って入った。
なに――!?
という表情をしたのはザラだけではない。虚をとられた砲術士官全員の視線を受けながら、レオは説明と作戦すらも省いた早口で命令した。
『2-5番の電力供給をカット。1番を急速充電。……何秒でいけます?』
『6-12番は充電完了…つまり待機放電分を補うだけで済むので、原子炉の全電力を1番に注ぎ込めます。…まぁ、12秒でしょう』
副長代理が応えた。さすがMMECの事は全て頭に入っている。
『やってください』
『……?』
サウロイドの世界では司令にあるのは拒否権だけで作戦立案はできない決まりになっているため、砲術士官は「え…」と顔を見合わせてしまった。だからレオは柄になく声を張ってその尻を蹴り上げてやるしかなかった。
『さぁ!』
そう怒鳴りつつ、司軍法官のゾフィがこの場にいなくてよかった、とレオは内心ほっとしている。
ともかく。
ワァッと技術系のオペレータ達が騒がしくなった。と――
『司令…』
そんな大忙しの下士官達を見ながら、なぜかニヤニヤして嬉しそうなのはザラがレオだけに声をかけた。
『私も物事の確実性が好きですが、司令は私以上のようだ』
『最初の5連砲で甲を黙らせられたとするなら、そして甲と乙が同型艦だとするなら…7連砲で乙を沈められるかもしれない――そう考えただけです』
ザラの中で急速に成長した一方的な好意に、レオは迷惑そうに応えた。
レオはエースとゾフィを友人としているように、ザラのような冷血で
『素晴らしい判断です。司令』
『どうも…』
と、そんな会話をしている暇もないほど12秒などあっという間の事であり、さっそく1番砲台からの報告がスピーカーに響いた。
『充電完了!回頭完了!ターゲット捕捉も完了です!』
先に述べたように作戦権は
『発射…!』
レオは静かに強く、12秒かけてセブンカードにした役をコールした。
バババババババシュン!!
一瞬、基地全体に震度3程度の揺れが起きたかと思うと、7本の赤い閃光が天に向かって伸びた!
レオは、ザラのように全くもってこの
――頼む、沈めてくれ…!!
――――――
―――――
――――
「き、来ます!」
二番艦は体勢を整え終わり、いよいよ砲撃しようという矢先だった。
「また!?」
「早すぎる!」
「いや、本艦ではありません!」
「本艦ではない」と聞いた瞬間、砲撃の準備をしていたアニィ以外のクルーは反射的にバッと右舷の窓に視線を遷した。首だけを向ける者もいれば、真之のように窓にかじりつく者もいた。
もちろん窓の外には併進する僚艦の
――頼む、沈むなよ…!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます