第214話 宇宙クジラの逆襲(前編)
サウロイドの月面基地の周囲、全12基で構成される
放たれた1.5メートルの鉄心は、まるで6本指の奇形の魔獣が狂わんばかりに天界を渇望して腕を伸ばしたように、6本の赤い軌跡となって一直線に宇宙に伸びて行った!
狙われた
「来ます!数は6!」
二番艦のブリッジでは、マーカスが叫ぶ。
「手は無い!」
司令官のボーマンが清々しいまでの無策を言い放てば、艦長の真之も続いた。
「総員、耐ショック体勢!!」
耐ショック体勢!?
軽さが命の華奢な宇宙船が耐えれるわけはない――と我々が思ったその刹那だ。
ガン!!
無重力であるはずのブリッジで、ガンッ!と全員の体が浮き上がった。
いや違う、部屋(船)自体が横に1mほども動いたのだ、それも鋭く…!
「痛たっ!!」
「ぐっ!」
プカプカと浮いていた乗組員の体(つまり船にくっついていない物体。物理的には非剛体と呼ぶ)は直接の衝撃を受けたわけではないが、部屋(船)全体が左方向にスライドしたせいで、乗組員は相対的に右に吹っ飛ぶ事になり壁に叩きつけられる者もいた。
部屋全体が動いたワケなので体の質量は関係がないが、‟耐ショック体勢”を維持する筋力が足りなかった小柄なアニィは特に吹っ飛び、思い切り壁のモニターに肩をぶつけてしまう――が、しかしそんな事は大事ではない!
「た、耐えた!?」
アニィは自身の打ち身など気にもとめず別の事に驚嘆した。
ここで「なぜアルミで出来ているような華奢な宇宙船がレールガンの直撃に耐えれたのか」の説明すべきところが、それは後述とさせて頂く。
「た、耐えた!?」
アニィは驚いた。本当に予期しないことだったようで、ヘルメットのバイザー越しにも分かるほどに目を皿のようにしている。
「すげぇ!!!」
マイルズは思わずとなりのオペレータの方を叩き、
「ああ! 三番艦も健在!」
そのオペレータはマイルズに微笑むと同時に、窓から並進する三番艦を確認し気を利かせて、それを一早く報告した。信号うんぬんより彼の席から窓越しに目で見るのが一番早いのだ。
「
レールガンの衝撃のせいで両艦ともクルクルと自転を始めているので、三番艦の腹や背中に傷が無いかよく見えた。
「本艦の損傷は!?撃てるか!?」
艦長の真之は反射的に言ったが、それに対して
「確認不要!」
ボーマンは叫び返した。
「情報が、いつ
彼も椅子から脱落して情けない格好だったが言葉は的確だった。
「確認で
思いつきでなく用意していた言葉だろう。正しく歳をとった者の頼り甲斐とは、こうしたケーススタディの蓄積と、それの正しいタイミングでの処方にある。
「反撃!!姿勢制御!」
「了解!」
ボーマンの気合いが乗り移ったかのように、二番艦と三番艦は景気よくメインブースターを最大出力で噴かして、レールガンの衝突で自転を始めてしまった艦の体勢を立て直す。
ごぉぉ!!
「宇宙戦艦はこうてなくては!」という威勢のいい炎を、アルテミス級が我々に見せてくれるのはこれが初めてである。
凡作なSFアニメの世界では、よくロボットの背中のブースターは常に火を噴いているが実際はそうではなく(※)常にケチ臭く航行するのが宇宙船なのだ。このアルテミス級もまたメインブースターを本気で燃やしたら5分と持たずに燃料を使い切ってしまうものだから、いかにこの単なる急速姿勢制御が決断の重いものであったかが分かる。
つまり最初で最後の大博打に、ボーマンは出たわけである!
――――
―――
※ロボットが背中のジェットパックで飛び回るようなナンチャッテSFのツッコミどころは(そのツッコミが無粋で揚げ足である事は筆者も分かっている。敢えて言うなら!で記すと)エネルギーと運動量を混同しているところにある。
確かに運動エネルギーというものはあるが、すべてのエネルギーが運動と紐づけれるわけではない。「ゴールデンレトリバーは犬であるが、犬はゴールデンレトリバーではない」のと同じで「運動はエネルギーであるが、エネルギーは運動ではない」のである。
筆者が好きなガンダムで例を挙げると、ミノフスキー式核融合炉やら太陽炉やらニュートロンジャマーキャンセラーやら、作品ごとに何かしらの内燃機関の説明がなされ、それが産み出す膨大な電力(エネルギー)で手足を動かすという設定になっている。
それはいい。
しかし、その内燃機関の設定だけでは宇宙を飛び回れる運動の説明にはなっていない。なぜなら内燃機関の電力(エネルギー)でもってスクリューを動かして移動する原子力潜水艦とは違い、宇宙を飛び回るためには手足を動かしてもダメだからだ。宇宙では自分の体から
しかしブースターは何かを捨てる行為なので「ハイパーメガ粒子砲の出力は街一つ分に匹敵する!」と内燃機関(エネルギー)の凄さを誇示されても、なぜ捨てる(ブースト)という行為を永遠に続けられるかの説明にはなっていないのだ。
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