第195話 機械の収斂進化と、不気味の谷
サウロイドが放った4機の
――――――
「
と、管制官が言った。ブゥンとブリッジの天井(宇宙船なので天井も何もないが)に据え付けられた大モニターに電源が入る。
「さて…」ボーマンは無重力だというのに座り直して視線を鋭くした。「すべてはこれでハッキリするだろう…」
その‟ビデオレター”は20分に及ぶものだった。
前述の通り、月面にいる揚月隊と宇宙艦隊の通信が開く30秒ほどであり、そこでリアルタイムに会話するのはほとんど不可能だ。できても挨拶ぐらいなものである。そこで、陽月隊から予め撮影および音声の吹き込みが行われたビデオデータが送信される方式がとられるわけだ。21世紀だというのに、トランシーバーで会話するように、お互い片道の連絡しかできないわけである。
なお本来30秒もあれば2034年の人類の技術なら数テラの情報が送信できるのだが、敵の基地の周囲では電波干渉が起きる事を人類は知っていたので(それがホールのせいだとは人類は知らず敵の妨害電波だと考えていた)データが欠損する事を織り込み済みで何と13,222回も同じデータを送信する事にした。20分のビデオデータを一万回も受信したのである。それぞれのデータはランダムに欠損していたが、合体させれば復元できるというわけだ。
話を戻そう、こうして月面から送られてきたビデオは――
旗艦のブリッジを凍り付かせた。
情報としてはノリス隊長が早口で説明した通りで、ロボット恐竜の奇襲を受けたこと、その攻撃により隊の約1/3にあたる25人が死亡したこと、ロボットの操縦者と思われる敵の姿を目撃したこと、その敵は人間と似たようなプロポーションだったこと(これに映像はない)。そしてさらにノリスの口から以外の情報としては、その敵をネッゲルの部隊が追ったが消息を絶ったこと……そういった内容だ。
映像の中身は最後のネッゲル青年の一件以外には聞かされていたものと違いなかったが、実際に見る機械恐竜の映像には誰もが言葉を失った。
見た目の恐ろしさというよりは「未知の知的生物が本当に居るのだ!」という証明の部分に戦慄したように思う。油圧式のシリンダー、発動機、カメラ、関節のベアリング…あらゆる機械部分は、同じ目的に向かって同じレベルの知的生物によってデザインされた産物のため確かにそっくりであったが、なぜだろうか印象が決定的に違うのである。
壊れた機械恐竜を見たときに、ネジや溶接部の一つ一つの形状を気にしているワケではないはずだが、そうした細部の微妙な違いが積み重なる事で全体的には「まるで違う世界のマシン」という不気味な直感を我々に与えている。
「なんという…」
映像に映る機械恐竜の残骸は、ブリッジの人々を言いようのない不安にたたき込んだ。きっとスカイネットが作り上げたターミネーターでも、こういう不気味さは持っていないだろう。あくまで人の技術を集積(ベース)としてのロボットだからだ。
「…私はこの瞬間まで異星人説を否定していた」
とボーマンは独白した。
「月の基地は、やはり人間の、どこかの組織が作ったものだと思っていた。ナチスの残党説までは言わんが、何かの陰謀説の方さえ支持したくなるほどだ。確率的には
彼にしては珍しく、着地地点が分からない長台詞だった。
「しかし見たまえ。これは人間が作ったものじゃない。紛れもなく確実に!」
「ですが司令。もっと不思議な事があります。その不思議なこととは――」とアニィは言った。言い返したというに等しい語調である。「大した事がないという点です。技術が」
「ああ、そうだな」
真之も頷く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます