第164話 未知との遭遇(前編)
『――以上が作戦だ。良いか?』
サウロイドの月面基地の司令官のレオは、そのとき、もっとも端的な言葉を
司軍法官は人類にはない独自の階級で、作戦の立案が参謀、作戦の遂行が指揮官だとするなら作戦の審問を担当する役柄である。
ゾフィは作戦に口出しする権利は無いが、法の下において「NO!」を言う最高の権限を与えられている。彼女がいま否定すれば、全て作戦をチャラにできるのだ。
そういう意味で司令官のレオにとっては、ゾフィはスペードのエースのような相手で作戦を進める上では決して仲間ではないのだ。
作戦の内容に問題ないか――とゾフィは訊かれたが、どちらかといえば違う意味で笑ってしまっていた。というのも、司令官と司軍法官の答弁の間に友人関係を介在させないのは当たり前だが、レオの線引きは生真面目すぎて、むしろ無礼に聞こえる素っ気なさだったからだ。
それにゾフィは少し笑ってしまっている。
『確認しました。良いでしょう』
ゾフィが司令室に到着したのは20分ほど前で、そのときのレオと再会した瞬間を描写できなかったのは残念だが、ここで回想を入れている暇はない。
『では――』ゾフィも冷淡に言い返した。『アクオル市第三基地キャンプムーン、司令官レオ・アロメ。指揮権を貸与します』
『受領しました』レオはゾフィに向かって頷くと、今度はマイクに向かって言った。『各位、聞こえましたね?』
その問いかけに対して、少しノイズ混じりの声が司令室のスピーカーから戻ってくる。
『各位ってさ…俺しかいないんだぜ?』それはエースの声だった。『そういうのを形骸っていうんじゃないのか』
『正規の作戦…その手順だ。兵が一人だろうと関係無い』
――と格式張ってレオは返答したが、エースに引っ張られて少しフランクな話し方になってしまっている。
『そうかい』
『それで、目標は?』
『ああ、崖の下をゾロゾロ歩いてくるぞ』
『何人か分かるか?』
場面をエースの方へ遷そう。
真新しい
人類が行軍に手間取った60分の間に、tecアーマーMk.2はギリギリで完成したのである。
『60…いや70人ぐらいはいそうだ』
『敵の容体は?』レオはすかさず訊き返した。
ホールの影響による電磁波の乱れは、ホールを有す基地周辺で特に顕著になるので基地との無線通信による映像の送信は難しい。電波の強い会話だけ(それもノイズ混じりだ)がせいぜいなので、その場にいるエースが実況中継するしかなかったのだ。
『口でいうのは難しいね…』
『お前は今、別の知的生物を見た唯一で初めての男なんだぞ!』
しっかりしろ、という意味で副司令が喝を入れた。
『やれやれ、そりゃあ身に余る光栄だ』
エースは冗談っぽく言った後で、声のトーンを落とした。
『
『重心が高い?』副司令が訊き返した。
『腕が太いというのかな?胸が開いていて肩がしっかりしている。その肩から足のように太い腕が体に平行に降りているようだ。射撃用と思われる武器は右腕で携えているが腕に固定されているわけでは無く、手の握力のみでもって保持しているようだ。…よほど握力があるのかもしれない』
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