第38話 開戦の気運

 謎の月面基地に対し、KAGUYA-IIを調査に向かわせなかったのは相手を刺激しないためだけではなかった。

 基地建設の不可解な点も人類を怯えさせたのである。


 というのも、サウロイドはホールを通して本土(サウロイド世界の地球、前述したイベリア半島にあるホール1基地だ)から月に建材を運んで基地を拡張させていったわけだが、これを人類の視点から見ると、まるでマジックのように何もないところから人工物を出現させているように見えたわけだ。

 当初は月の土壌そのものを建材(コンクリートなどは作れるだろう)に変換する技術を持っている知的生物だと考えられたが、月の土壌からは精錬し得ない重金属を使ったを建設し始めると、人類は二つの意味でいよいよ頭を抱えた。


 どこから彼らは現れるのか、と。

 そして…つまり敵対する意志があるのか、と。


 だが、同時に人類にも希望は残されていた。

 それは『基地自体は』という事だった。

 たしかに建材をどこから搬入しているのか(まさか地下からではないだろう。彼らが地底人だったとしてもそれは問題を棚上げしただけで、月の土壌から鉄を産むことはできないというのは変わらない)は分からなかったが、ワープとかそういう超技術を彼らが使いこなしているワケで無い事は基地の構造から分かった。

 月面ステーションを造れと言われたら人類でも十分に、いやもしかするともっと上手に造る事ができる代物だった。


 ――勝てる。

 誰が言ったわけではないが、人類全員がこの凶暴な言葉を旗印に立ち上がるに至ったのである。


――――――

―――――

――――


 …それが、3年前の事だった。


 そして今や国連軍は、各国の寄付と牽制で運営される便利屋ではなく、文字通りの国連軍(国連宇宙軍)へと進化を遂げ、サウロイドの月面基地へ、ジェット推進式ドローンを満載したロケットを20機、百三十分以内にスクランブルできる揚陸用スペースシャトル(30人乗り)を5機、1855発の衛星間ミサイル(内62機は核ミサイル)、そして月の周回軌道へと即時投入可能な新造攻撃衛星を3機を向けている状態だった。


 しかし、我々は知っている。

 今回のエイリアン事件と人類は無関係だ。まだ人類はサウロイド世界に攻撃をしかけてはいない。

 なぜなら人類にはサウロイドの月面基地を急襲するだけののである。


 つまり「月面に実戦部隊を送るほどの力を有していないのか」というレオの推測は半分当たっていて、半分ハズレていたわけである。


 だが、その均衡もエイリアン事件のせいで大きく変わろうとしていた。

 なぜなら――


『アイツだ!』

 モニターが、A棟の上に姿を現したエイリアンを映し出した――!

『この尻尾のヤツです!』

『MMEC!』

 レオは叫んだ。基地を囲むように配置されたMMEC(Multi-Mass-Electromagnetic-Catapult)砲塔群、すなわちレールガンを使えと叫んだのである。

『はい!捕捉します!』


 ――そう人類はこのエイリアン事件で、サウロイドの具体的な攻撃力を目の当たりにしたことで「勝てる」という凶暴な決意を固めてしまったのである。

 神の悪戯か、この事件が人類とサウロイドの睨み合いの関係を変え、ついには直接的な戦闘を引き起こす要因になってしまったのだ…!



だが…それは未来人だけが言える結果にすぎない。

いま当事者のサウロイド達はそれどころでは無かった。


話をサウロイドに戻そう。場面はエイリアンを彼らが見つけたところだ。


『アイツだ!この尻尾のヤツです!』

『MMEC!』レオは叫んだ。

『はい、捕捉します!』下士官はレールガンの照準をエイリアンに走らせる!

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