第39話 MMEC Multi-Mass-Electromagnetic-Catapult
『アイツだ!この尻尾のヤツです!』
『MMEC!』レオは叫んだ。
『はい、捕捉します!』下士官はレールガンの照準をエイリアンに走らせる!
画面の中、エイリアンは今まさにA棟の天井を破って外に出てくるところだった。
そう――!
A棟に侵入しようとしているのではなく、内から外に出ようとしているのだ。
『たった一日で…!』
たった一日でなんて大きさになったのだ、とモニターを見ていた誰かが漏らした。それは彼だけでなく全員の戦慄を示していた。あの幼体がホール3仮設基地から検体として2体持ち込まれたとき、その大きさは子供の腕ほどのだったはずだ。驚くべき成長速度である。
もしホール3基地の連中があの幼体の群生地を見つけていて、彼らがそれにちょっかいを出したというなら…
『ヤツめ、何をする気だ!?』
『…巣に戻る気でしょう!』
そうだ、巣だ!
音信不通のホール3基地が、もうエイリアンの巣になっているのは想像に容易かった。ならば
――戻すワケにはいかない!
新たな餌場の位置が巣に知れ渡るのは止めねばならない。
なぜ自分がそう思ったのか、レオ自身にも分からなかった。だが彼の脳裏には「ヤツの生態はハチやアリのようなものなのではないか?」という直感が閃光のごとく走ったのである。
彼らの労働階級が、フェロモンなりダンスなりで巣の仲間に餌の在処を伝えるように、おそらく頑強なエアロックを突破できないと知ったヤツは外回りしてでも巣に戻ろうとしているのではないか。そういう帰巣本能がある。
月面の環境が自分の身を殺すかもしれないとしても関係ない。己というモノがないからだ。ヤツらは遺伝子の奴隷、同じ遺伝子を持つ群れの繁栄のためには喜んで死を受け入れるだろう――!
『MMEC、いけます』下士官はきっぱり言った。『が、モニター不能』
レールガン(MMEC)の銃口が見るスコープカメラの映像は、下士官の目の前の小さなモニターだけに表示されている。壁の上部に備え付けられた皆が見る大モニターには、前述の通り、基地外縁の天体望遠鏡をハッキングする事で臨時転用した監視カメラが、A棟の全体像が映し出している。
『構わん』副司令が即答した。レオも同意である。
『しかし射角が!』下士官は振り向いて、わざわざ顔を向けて言った。『射角が…A棟にも当たります…!』
『――っ!』レオは一瞬、逡巡した。
A棟ごと撃ってしまうべきか…。
これは何も誇張ではない。
A棟の職員を見殺しにしてでも、エイリアンという未知なる危機を今潰すべきではないか、という考えが彼の中で駆け巡っていた。
A棟の職員の命を葬る、その咎を背負う決意もあった。
『いかがいたしますか…?MMEC砲台は高台にあります』下士官はレオの逡巡を別の意味でとらえて、状況の補足を始めた。レオの沈黙は、なぜ基地に当たるのか、を考えているものだと勘違いしたのだ。『高台から撃ち下ろす形ですので…!エイリアンに当たった後、奴の足元の…おそらくA棟にも当たります』
『そうじゃない…』
レオの逡巡は、不協和音を奏でるチェロのようにどんどんと音量を増し、そして弦が弾けた。
『――射撃、待て!!』
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