第34話 レオの使命

――来たのかもしれませんね…!こちらの世界の霊長種が。


 レオは、こちらの世界の知的生物…つまり人類が攻めてきたものと悟った。そしてレオの使命とはまさに、人類からホールを死守する事それであったのだ。


 いや、レオは確かに今のホールにいる。だからのホールを守れば良いではないか、と思ってしまうかもしれない。

 だが出口は入り口でもある。

 このホールはサウロイドにとっての人類世界への出口であると同時に、人間にとってのサウロイド世界への入り口でもあるのだ。

 しかも不運な事にサウロイド世界のホールは地球上にあった。

 つまりこのホールがを支配している文明に奪われたのなら、彼らは自由にへ侵攻する事ができるようになってしまう。

 もし悪意があるなら、このホールから核ミサイルを打ち込むだけでサウロイド側の地球を焦土とする事さえ可能なのだ。だからこそサウロイド達は街を潰して人工の山を作り、ホールを何とか封印しているわけである。

 だがそうした防御策をとっていても、この月面のホールが奪われるというのはサウロイド達にとってはゲームの主導権を握られたも同然なのだ。


 そんな危機感を、レオを毎晩思っていた。

 月からでもの ――繰り返すが我々人類の地球だが―― 街の明かりはくっきり見えた。夜であっても分かる光の海岸線は、レオにとっては恐怖の対象だった。きっと、には未知の知的生命が数万、数億という数いて(レオは過小評価していた。実際は数十億だ)彼らは別の価値観を持っているのだ。

 もしかすると他の生物を支配下に置く事をこそ是とする宗教を持っているかもしれない。

 だから――


『来ましたか…!』

 だから、レオは静かに熱く言った。

 コチラから侵略する事はない。たとえ貴様らが狡猾さを知性と僭称する醜い知的生物であっても、サウロイドは共栄を目指す。それがサウロイドの魂の高貴さだ。


 ただ…ゲームの主導権は渡さぬ…!


『この部屋からMMEC(※)の管制を奪えますか?一番簡単なもので良いです』

 ※Multi-Mass Electromagnetic Catapult 多目的質量電磁砲は彼らの世界の特徴的な兵器で、我々の世界でいえば質量可変レールガンと呼ぶべきものだ。

 基地を囲むように配されたMMEC対空砲台は大小3種類、計20門ある。砲台といっても人が中に入って覗いて撃つものではなく、本来の司令室から電子制御される仕組みになっていて、それをハッキングできないかとレオはオペレータに言ったのである。

『とりかかります!』

『位置は!?』

 続けざまにレオは、もう一人の下士官に問いた。

『位置!?そうだった…くそ!申し訳ありません、ココは使い勝手が違って!』

 A棟にある本来の司令室であれば、必要な情報というものが予め想定されていて、考える前に機械側が提示してくれるので、彼らはすっかり甘やかされてしまっていたようだ。繰り返すが、ここは本来はホールの監視室だ。

 自分で思いついて、自分でデバイスに指示を出さなければ情報は得られないのである。

『早く確認を!』

 レオはそう指示すると、そのわずかな間隙の間、心を落ち着かせようと頭を働かせた。

 ――いいか。現時点では…

 ――単に人工衛星を監視するためのセンサーが反応したというだけなんだ。

 ――隕石かもしれない。そうだ、その可能性の方が高いはずだ。


 レオは自分にそう説明した。

 しかし事態はそうではなかった。


『位置は…え!?』

 位置を問われた下士官は驚愕した。

『す、すでに基地に上陸されています!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る