第30話 推測
『それは、つまり…ちゃんと喰う事で大きくなるんだよな?普通の生物のように』
『何を言っているんだ?』
『いや…』
エースの脳裏には、エイリアンがラプトリアンがするのと同じように器用に尻尾を使う光景がフラッシュしていた。
――エイリアンが『成長』ではなく『感染』するのだとしたら…
――つまり、腕ほどのサイズだった幼体は巨大な精子のようなものであり、標的であるラプトリアンに寄生した後に、自分の遺伝子を宿主であるラプトリアンの細胞に感染させる事で、その体を自分好みに作り替えたのじゃあないか…?
この場合、栄養と場所を提供するラプトリアンは卵子にあたる…。
――エイリアンは、標的自体に卵子に相当する役割を担わせる、そんな特殊な生態を持っているのかもしれない。
…それなら、突然大きくなった事にも説明がつく。体を流用しているからだ。
『どうした…?』
黙り込むエースを見かねてラプトルコマンダーが声をかけた。
『さらわれた…いや、食われたのは何人だ?』
『さぁな。電気系統が死んでいるし…。研究者たちはマニュアルに従って
各部屋にはそれぞれ独立した生命維持装置があり、数日は生き延びられるようになっている。
『何度か、遭遇したんだろう?大きさはに変化は?』
『いや、あの大きさで成長は止まったようだ。俺達は何とか駆除しようと探し回って半日で四回戦ったが…いや逃がしただけだが、大きさは変わっていないと思う』
『…やれやれ』エースは何に向けるでもない深いため息を吐いた。『一日で成長する生物で、半日大きさが変わらないというなら、あのサイズが成体というワケだな』
『ああ、俺は生物兵器だと思っている…敵の』
エースは自分の推測は語らなかったが、コマンダーは口にした。それらは相反しない推測であった。むしろ合わせると、標的に寄生し体を乗っ取る生物兵器である、というもっともらしい結論に至る。自然の禁忌を踏みにじる生物だという彼の嫌悪感は、遺伝子工学に秀でた誰かによってデザインされた兵器として考えれば納得がいくではないか。
『なるほどな…それもあるかもな』
エースは苦笑気味にそう言うと傷めた右足をかばい、ほとんど片足の力だけで立ち上がった。
『動けるか?』
『ああ。だが戦うのは…無理だな』
これが、エースが宇宙人を追わなかった三つ目の理由だった。
死体を引き摺りながら逃走したので、後からでも追跡ができるだろうと考えたのである。まだたっぷり血を蓄えた死体を引き摺ると痕跡が残るなどという発想はあの宇宙人には無いようだった。
『戦えないが電源を回復させたい、一刻も早く。ホール3仮設基地との連絡も途絶えているんだ』エースはコマンダーに事態を説明する。『酸素が持つからって、悠長にエイリアン退治をしているだけってわけにはいかないんだ』
『なんだって。むしろホール3の連中が‟アレ”を見つけたんだぞ。そして、そっちでも調べてくれって検体を送りつけてきたんだ』
『それも二匹だけだろ?』
『ああ。解剖用と生態調査用にだが…あ!そうか』
『そうだよ…!』
ホール3仮設基地は間違いなく悲惨な事になっているだろう、とエースは暗に示したのだった。
『そうだな…』
ラプトルコマンダーは顎を右肩に乗せて考えた。前にレオがやったのと同じ、人間でいう腕組みのジェスチャーである。彼らは考え込むときに無意識にそれが出てしまうのだ。と、そこへ――
『隊長。処置が終わりました』
エースの開けた穴を使って、ラプトルソルジャー達が階下に飛び降りてきた。
カン、カン、と彼らの立派な足の爪が床に当たる乾いた音がパイプ状の廊下に響く。
エイリアンのそれとは違う、小気味よく、公明正大で頼もしい音であった。
『よし…今後の作戦を伝える!』
ラプトルコマンダーは、鳥が獲物に意識を集中するときのように、胸を張り首をキリッとS字に引いて全員に叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます