第29話 感染

 エースは、ホール3仮設基地から持ち込まれた腕ほどの大きさだった検体が、自分達より巨大なエイリアンへと、たった一日で巨大化したという事を受け入れられずにいた。


『簡単に言いやがって…! 巨大化なんて、あってたまるか』

『だがそうなんだよ』ラプトルコマンダーはひとしきりエースを真っすぐに見つめると、また彼の怪我を負った足へと視線を落とした。包帯の続きを巻きながらコマンダーは言った。『まず、お前の認識は間違いない。脱走したとき検体は体重5kgだったという』

『じゃあ、やはり。ありえない成長速度だろう、生物として。まだ一日も経っていないんだぞ?』

『そうだな…見立てが間違っていたということだ』

 エースは腹立たし気に口を噤んだが、怒りをぶつける相手は筋違いなので意味も無く状況を振り返った。

 むろん、不機嫌そうにである。

『最初に‟アレ”が脱走した聞いた時は、やれやれ何やってんだよ、って感じだったさ。ただ俺は担当外だし非番だったからな、いつも通り就寝した。それで起きたら、何やらA棟が騒がしくなっている聞いたワケだ』

 聞き手のラプトルコマンダーは黙っている。こうした種差を標的にした断定は差別だとサウロイド世界では問題になるが、筆者は関係ないので言ってしまうと、もともとラプトリアンは饒舌ではい。

 エースは黙っているラプトルコマンダーを相手に続けた。

『‟アレ”がA棟で暴れているんだろうとは思ったさ。だが暴れるといっても、配管に入っちまって大変な事になったとか…そういう話だ。それがたった20時間前の話だぜ?その時、レオ(この基地の司令のサウロイドだ。エースにとっては圧倒的に位の上の相手だが個人的に友人関係にあるので名前で呼ぶようだ)も、すぐに捕獲か、殺すか…何かしらの対処ができるだろうと考えてA棟を封鎖する事にした。閉じ込めたワケだ。貴重な検体だからな』

『A棟にいた兵士達だけで対処できるだろうって事だろ?その判断は恨んじゃいない』

『そりゃあそうだ』

 エースは、さも当たり前だという態度で言い返したが、死地というのは言い過ぎだが実際に仲間が死ぬのを目の当たりにしたラプトルコマンダーは面白くない。

『だが、そうじゃなかったんだよ!終わったぜ』

 素早い処置である。最後に慣れた手つきで爪を使って包帯を切って長さを整えた。

『アイツを逃がすワケには行かなかったからな。運悪く電源もやられてしまったが、A棟に封じ込めるしかなかった。助けを求める術はなかった』

 次元跳躍孔ホールの影響で電磁波は減衰するため、基地内で無線はもともと使えない。

『その判断は正しかったさ。ところで…』エースは深めの呼吸をした。『何人か、食われたんだろう?』

『ああ。十中八九』

『それは、つまり…喰う事で大きくなるんだよな?の生物のように』

『何を言っているんだ?』

『いや…』

 エースの脳裏には、エイリアンが器用に尻尾を使う光景がフラッシュしていた。


 ――あれはまるで、ラプトリアンと同じじゃないのか?

 ――もし『成長』ではなく『感染』ならば…あるいは

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