第23話 殺戮者を追え
ここで視点を再び、エースに戻す。
レオがホール3仮設基地の原子炉にメルトダウンが迫っていると知った頃、エースはA棟のエアロックにいた。
基地の中でもエアロックだけはとび抜けて頑丈で、重厚な扉が与圧室を挟むように二重になっている。
『A棟側のドアが開きっぱなしのようだが…向うの気圧は問題ないな』
エースはエアロックに備え付けられている計器パネルを、自らの懐中電灯で照らして確認した。室内全体を照らすのは紫に明滅する警告灯の明かりだけであり、それでは計器を読むことができなかったからだ。
『じゃ、開けるぞ』端的な言葉には、‟アレ”が飛び出してくるかもしれない、という警告が含まれていて、それをラプトルソルジャーは鋭敏に察知して銃を構えた。
『はい…!』
エアロックが開くや否や、ラプトルソルジャーは戦慄した。
『あっ!』
A棟側のドアが開け放たれた与圧室には、体を引きちぎられたサウロイドの亡骸があったのだ。
もの凄い力で引き裂かれたのか、下半身しかない。部屋中が真っ黒に染まっていると思ったが、いや……!
『大尉…』意味も無くエースを呼んだ。
いや、それは血だった。
警告灯の紫の光のせいで赤を奪われていたから黒くみえたが、それは紛れもない血痕だった。エースはラプトルソルジャーが呆然と立ち尽くしつつ臨戦態勢を解いたのを見、安全と判断して扉をグイッと全開にした。
そしてエースも、その死体を目撃した。
『なんだと…?』
"アレ"は子供の腕ぐらいの大きさのハズだぞ。出来るとすれば…
『テクノレックスの暴走かもしれん。警戒しろ』
テクノレックスは名前の通り、獣脚類を模した汎用人型(?)ロボットである。
恐竜人間が進化した世界で、我々がイメージするティラノサウルス型のロボットが作られたというのはにわかには不思議に思うが、よくよく考えればそうではない。
全ての恐竜が知能を進化させてサウロイドやラプトリアンになったワケでは無く、進化を強要されなかった種はそのまま生き残っており、サウロイドの世界にはまだ我々の知るタイプの恐竜が現存しているというわけだ。このテクノレックスは小型の獣脚類を模したロボットで、我々の世界に置き換えれば犬型のロボットのようなものだろう。
テクノレックスはもっぱら戦闘用というワケでは無かったが、軍に籍を置いているのは確かであり、そのためホールが軍事基地の一つであるという名目(研究所というカテゴリになると色々面倒になるのは人間世界もサウロイド世界も同じようだ)を誇示する意味もあって、ホール1基地には2機…いや2匹が配備されていた。
『テクノレックスのAIがエラーを…。そんな事がありますか?』
ラプトルソルジャーは大量の白い息を吐いている。
恐怖もあるが、電源が止まっているせいで基地内の温度はみるみる落ちている。なお、いわずもがな彼らは恒温動物である。そもそも変温性の生物に一定以上の知性が芽吹く事はないだろう。
『体がブッチ切られているんだぞ?誰ができる?』
『‟アレ”ではない…。ないという事ですね』
『ああ、納得できる説明だろ。テクノレックスが暴走したっていう方が』
『はい』
サウロイドは右手だけに装備しているアーマーデバイスに火を入れた(セイフティを外した)。
これは火球を撃ち出すサウロイド独自の科学兵器である。範囲と威力に優れ、何より無反動というのは宇宙向けだったが、有効射程は20mもない白兵戦用の武器だった。
『しかし、ほかの連中は何をしているんだ…』
下半身しか無い死体の向こうには、A棟の深い闇がエアロックのドアによって切り取られている。冥界の門のようだった。
『皆、やられてしまったとか?』
『まさか』
エースはドアの奥を見つめながら行った。こんな事なら右手だけではなく、Tecアーマーを完全装備してから来るべきだった。しかし…
『いくぞ!』
待ってはいられまい。
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