第19話 タイム・リミット
月の地震?いや…
『そんなワケはあるか…! レオ!任せるぞ。俺は行く』
ここで、我々が半主人公として追ってきたあの青年将校の名前が判明した。
レオという名前らしい。
『エース!電気系統の復旧も頼む。ここの予備電力だけではもたない!』
レオと呼ばれたサウロイドの青年将校は、その視線を臨時の司令所のコンソールに向けたまま言った。それから『今の振動、原因はわかりますか!?』と声の質で話題と話題を向ける相手を変えた。
一方、エースと呼ばれたサウロイドの兵士はその質問が自分に向けたものではないと悟り、何も言わず駆け出していった。お互いに目を合わせない事が、逆に信頼関係を物語っている。
『原因はわかりますか?』
『計器類に異常はありません!この基地の由来の…』
この基地の由来の振動ではない――そう副官が言い終わる前に基地の壁を風が叩いた。月面ステーションの壁がいくら脆弱だとはいえ、ここは最深部のホールの監視室である。(本来の司令所はA棟にあるが、いまA棟は‟アレ”による原因不明のシャットダウンに陥っていたため、この狭いホールの監視室が臨時の指令所を務めていた)
『風…!?ここまで響くなんて』
いかに強風だったかが分かる。しかし…もちろん月に風などは吹かないはずだ。
『建造中のホール3基地が…』
レオは瞬時に理解した。
地震に続いての強風。その二つが物語るのは、遠方4kmに建造中であったホール3基地で爆発が起きたとしか考えられない。
『たしかにホール3基地は96時間前から音信不通です』二人の参謀兼オペレータの一人がそう言うと、もう一人が気づいた。
『爆発!?』
『しかし…風は?』
『いや、たしかに』
オペレータの二人は首を傾げた。
『液化酸素のタンクがやられた…のでしょう』
レオの中では映像が浮かんでいた。
クレーターの丘の向こう、建造中のホール3基地で何らかの原因で爆発が起きた。その爆発は音として伝わる事はなかったが、地響きとなって月面を揺すった。そして爆発によって傷つけられたタンクから液化酸素が漏れだす。しかも、ホール3基地は今まさに真昼である。大気の防御なく直射日光で照らされた液化酸素は一挙に気化し、凄まじい勢いで体積を膨張させて風となると、地響きから少し遅れて到達したのである。
『さっきの風は酸素ですか!?』
『くそ、指令所だったら分析ができたのに!』
二人のオペレータの頭にあったのは、基地全体が酸欠になってしまうかもしれない、ぐらいの生ぬるい危機感だった。だがレオは違った。
『まずい…!』レオは思わず舌を出した。ふざけているわけではなく、これはサウロイドが緊張したり恐怖したときにする行動だ。もっとも鋭敏な感覚器官を露出させ少しでも周囲の情報を得ようとする爬虫類や猛禽類がやる仕草の名残で、人間でいう鳥肌のようなものである。
『まずい…このままではメルトダウンを起こす…!!』
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