第16話 サウロイド軍、立つ(中編)

 しかし、上空400mにある「ホール」をどうやって埋めるのか。


 力技である。山を作ったのだ。

 まさに現代のピラミッド(四角錐ではないが、不思議なことにサウロイドの世界にもナイル川付近に三角錐の古墳が残されていた)である。

 

 サウロイドは都市を捨て、その墓標かのように高さ600mの人工の山を作ったのである。

 斜面の傾斜は頂から麓まで一律で約30°。つまり裾野を含めた山の直径は2km(600m×√3×2)を超える巨大さであった。

 山の東側の麓にはアクオルオ市のかつての中心部がある。普通の山では麓に森が広がっているが、この人工の山では代わりに背の高い建物がかつての街の賑わいを伝えるように地面からニヨキニョキと生えていた。

 山肌は全て分厚いコンクリートで固められ無機的で、標高350mと400mの地点に2つある山の内部への検問所(10m四方ほどの踊り場のようになっていて小部屋もある)だけが辛うじて人の温もりを感じさせた。

 山の東にある旧アクオルオ市と山の西南西の港からは、車体が見事に30°に傾斜した専用の登坂電車が出ていて、山の八合目当たりにある上記の検問所と地上を一日6往復で結んでいた。

 これが「ホール1基地」の全景である。


 多少繰り返しになるが、ホール1基地の中核、まさに名前の由来ともなる次元跳躍孔‟ホール”は地上400mの空中に発見されたが、それを囲むように600mの山を築いたので今や山頂から200m下に格好となる。

 サウロイド達は賢明だった。

 奢ることなく、‟ホール”が自分達の科学では到底及ばないと認め、それが急に不安定になって爆発するかもしれないと考えたのである。

 だがそれだけではない。

 もう一つの備えをしていた。

 それはから侵入に備える事だった。

 もし向こうの世界(この時点では彼らはまだ知らないが、向こうの世界の文明とは人類である)が侵攻してきたとしても、駐留する屋内戦に特価した迎撃部隊が狭い山中で殲滅する算段である。

 しかしそれでもまだ、彼らに余念はない。それだけではなく…


『諸君らの知っての通り!この基地の核爆弾は攻撃用ではない。…自爆用である』

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