第8話 月の人骨
パイロットは、月にあってはならないものを見つけたのだった。
車両が止まり、その月にあってはならないものを見つけた男性パイロットの方のカメラは一端オフにされた。カメラは計5台、パイロットの主観視点のカメラが2つ、パイロットがオンオフできる左手の甲につくカメラが2つ、車両のカメラ1つが同時放送されていたが、そのうちの一つ、男性の主観カメラがオフにされた形である。おそらくこの間、月にあってはならないものを見た旨を地上の管制室(注:中国国家航天局)に話し、調査の許可の是非を相談しているのだろう。
本来の同国の体質を考えれば、このまま放送をやめてもおかしくなかった。しかし世界同時配信の途中である。事故と流布されるのも面子が許されない。それに、この時点では管制室はパイロットの月にあってはならないものの報告を信じず、ただの変わった形の石ころぐらいにしか思わなかったのだろう、カメラはすぐに復旧された。
さらには短時間の調査の許可が下りたようで、男性に代わって助手席に座っていた女性パイロットの方が変わった形の石ころを目指し車両を降りることになった。
――いったい何だろう?
放送を見ていた世界中の人々が思っていた。たしかに「あれはなんだ!?」と男性パイロットは叫んだのだ。ある人は「ロシアの月着陸船の残骸か?」と予想し、ある人は「宇宙人ではないか」と空想した。
世界中の人々は、女性パイロットの手の甲のカメラがオンになるや、その映像に釘付けになった。
女性パイロットは左手の甲のカメラを目標に向けながら、小さな丘に登っていく。
それが捉える映像の中央には、確かに周囲の無個性な灰色とはどこか違う、石か何かを捉えていた。違いを上手く言葉にする事はできない。だが本能的な部分をぞわっと刺激する物体だった。
カメラはワッ、フワッと歩みながらそれに近づいていく。
――ああ…石なんかじゃない。
徐々にその姿が鮮明になるにしたがって、世界中の人々の動悸は一層早まっていく。まさか、まさか、と背中の毛が逆立つ想いがした。本能を恐怖させる無機物。リン酸カルシウムの結晶体。
あぁ、そうだ。
月にあってはならないもの、それは――
人骨だった。
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