第2話 病篤し
少女があまり自分の病状を知っている様子ではなかったので、三人はとりあえず相談し、彼女に今日の事は伏せて主治医の診断を仰ぎ、医師の方から事実を告げてもらう事にした。
きょとんとした顔で、三人の顔を一人ずつ見てから彼女はやっと疑問を声にした。
「あれ? なんで私、こんなところにいるの」
「
「すまない、私が乱暴に突き飛ばしたからだ。痛む所はないかね」
「あ、はい」
「もう帰宅していいらしいから、送ろう」
「きゃっ、歩けますけど」
「無理しない方がいい、救急車で運ばれたんだぞ」
車まで抱きかかえられたまま運ばれ、彼女らは
「
そう言うと
「具合はどうだ?」
「元気いっぱいですけど……」
「ねえ
「あ、それは、あれなの、模様替えしようかなって」
男に振られて、
「どう変えたかったんだ?」
「
「とりあえず寝てろ、適当に良さげにしておくから」
「あ、はい、お願いします」
何故、
「おにいちゃん、もうちょっと右がいいわよ」
「こっちか?」
当然のように”おにいちゃん”と呼ばれている事に、彼は時間差で気づき、少し恥ずかしそうな顔をした。
そして
「
「なんでこんな変な飾り方をしてるんだ」
「とりあえずキッチンを借りてお茶を淹れるわ。一息つきましょ」
「そうしようか」
彼はそのぬいぐるみを抱え上げ、軽く寝室のドアをノックして入ると、ベッドに大人しく横になる少女に、それを手渡した。
受け取った少女はそれを、ぎゅーっと愛おし気に抱きしめる。
「……何故、日夏君がライザを知っているのか、聞いてもいいかな?」
少女は少し上目遣いで、ぬいぐるみを盾にしながら躊躇した顔を見せた。
「あの、怒りません?」
「怒られるような事をしたのかな?」
「あれは君の仕業だったのか」
「ごめんなさい、彼がそういう事をしてる人とは思ってなくて」
「まぁ、済んだ事だし。ところでライザがその後、どうしたんだ」
なんとなくおかしい、と言う理由だけで告げるには、相応しくないと思ったが、
「あの男の研究は何だったんだ」
「超能力は進化ではなく退化だから、人類全員に高ランクになりうる素養がある、というものでした」
「なるほど……」
お茶が入ったと呼ぶ
「起きられるかな」
「あの、もう本当に歩けますからね!」
抱き上げられるのは流石に、恥ずかしくてたまらなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
柏ひなつこども病院に到着した
程なくして老医師が応接室に入って来ると、
「今まで、失礼な事を」
「どういう心境の変化でしょうか、
促され、お互いがソファーに同時に腰を下ろす。
「長い間、娘は必要のない手術をされてしまったのだと思い込んでおりまして。そうではなかった事を今日になって知り、謝罪をさせていただけたらと」
「あなたのように視野の狭い、無知な患者やその家族が、医療の進歩を妨げるという事は、ご存知だろうか」
「それは、まことに不徳の致すところ」
「随分と、献金にいそしまれていたようで。そのような時間があるなら、病気について学んでいただきたかった」
「誤解があったと思っております。それが無くなった今となりましては、このような事は二度とないでしょう」
「それは、ありがたい。今、入院している子供達に、チャンスが生まれる」
「お孫さん……は?」
「
「そんな」
「謝罪は受け入れた」
老医師は立ち上がる。
「ご足労頂き、感謝する」
それだけ言い残すと、静かに部屋を出て行き、座り込む中年の紳士だけが応接室に取り残され、同時に携帯電話に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます