第4話 救出
「言っておくが、これは不法侵入だからな」
「私達は捕まっても、未成年だから大丈夫よね?」
「それはどうだろうな」
こそこそと周囲を伺いながら三人は、湾岸倉庫のエリアに来ていた。
正直なところ、
だが放置すると、
彼がこのような行動に出たのは、
だが気になるのは
なのでここは、彼は自分一人が危険を侵す覚悟でいる。
「君達は、ここで待っているように」
「えー」
「人数が増えると目立つ。僕が何故いつも現場で一人で行動してると思うんだ」
「ドジ踏んだら、問答無用で助けに行くわよ、おにいちゃん」
とりあえず、
見張りがいないのが助かった。おそらく救助に来るような人間がいるなどと、欠片も考慮していないのだろう。
結局は大雑把な倉庫でしかなく、隠れる場所も多い。最近までずっと空き倉庫だったことはデータで確認済で、監視カメラの類も最低限だった。
――これで自分も、
電源ケーブルを辿り、明るい場所を探す。キーボードをたたく音だけが微かに聞こえ、
眼鏡姿の男が、だらだらと入力を行っている。
――見つけたが、さてどうするか。
周辺の様子を窺っていると、見知った金髪の美女が倉庫の奥の扉を開けて、この区画に入って来るのが見えた。プレハブのような囲いの扉を、女は鍵を開ける事もなくすんなりと入って行った。
――ん? 施錠されていないのか。あいつもしや自主的にやってるのか?
「どう? はかどってるかしら」
「データがない状態で、まともなレポートになると思っているのか」
「頑張っているから、ご褒美をあげにきたのに」
女はなまめかしく、男に顔を近づけるとその唇で男の頬を撫で、耳元で囁く。
「私、本当にあなたが大好きなのよ。ねえ、昔みたいに愛してるって言って?」
「……」
愛を囁いても彼が全く無反応なので、女は機嫌を損ね、その体を離した。
「レポートを書かせたいのか、邪魔したいのか、どっちなんだライザ」
「私の所に戻って欲しいの。私達、仕事でも私生活でも最高のパートナーだったじゃない。戻るという一言を、言って欲しいだけなのに」
「台無しにしたのはおまえだ」
久々に
「朝までにやっておいてね!」
言い放つと、元来た扉の奥に消えて行った。
「すごいアダルトだったわね」
少女の声が聞こえて、驚いた
「おまえら、いつの間に」
「動きを真似てついてきちゃいました」
とりあえず、ライザの先程の様子だと、
行くなら今しかない。
「行こう」
三人は足音を立てないように気を付けて進み、扉をそっと開けた。まず
モニターに目を向けていた
「逃げたいのか、ここにいたいのか。どっちなんだ
「逃げたいが、こんなものを付けられてしまってね」
首輪を指さす。
「リミッター? 爆薬付きとは恐れ入る。鍵がいるなこれは」
「これぐらいなら余裕で私が飛ばせるわよ。何処に行くかはわかららないけども」
後ろからひょこっと長髪の女の子が顔を出した。
「物質テレポーターか」
真面目な公務員は素早く、ポケットから何等かのチップを取り出すと、テープを使って彼の首輪に張り付けた。
「飛ばしてくれ」
「はい」
「よし帰ろう、急ぐぞ」
――迎えに来ちゃった。眼鏡も似合うね。
微笑みながら、心だけで彼に気持ちを語る。
心に染みるというのは、こういう事を言うのかと思う程に、
四人は無事に、見つからずに脱出する事が出来た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
四人は
男二人はソファーで、向かい合って小声で会話を続けている。
「助けに来てくれて感謝する」
「犯罪者を助ける日が来るとは思わなかった」
眠た気な目を更に細め、ため息交じりの苦笑をする。
「ハッキングの件は謝る」
「僕に謝られても」
苦笑が続くのは、あまり会話が弾むような間柄でもないからだ。
「
「超能力者の登録記録と事件簿だ。最近、高ランク者の事故事件が増えてきているように感じたから、実質的なデータで確認したかった。もし増えたとしたなら、人為的なものだと思った」
「正解だ、増えている。特にここ半年ほど」
「人為的か?」
「可能性は高い。今は市中に薬をばらまいて、実験してる様子があって」
国自体が画策しているというより、一部議員による圧力という感じで、時田局長は多少の躊躇を見せている、という感じであろうか。それも強い圧力ではなく、あまり大仰にはしてくれるな、という程度のものかもしれない。
研究所の暴走という線が濃厚だ。だがその場合だと、制御されていない分、なりふり構わずといった感じが今後事件を大きくしていく可能性がある。
「しかし何故、ライザはあんなところに」
「小樽阪上研究所に情報を横流ししていたことが鈴木所長にばれて、春日部超能力研究所をクビになったみたいだ。所長からは、俺に戻って来いというメールが来ていた」
情報漏洩の証拠を用意するのが簡単だったはずだ。自分がやった痕跡を、
バレそうになって保身に走り、手近な恋人だった男にその罪を被せたのだ。
あの女が愛しているのは、己だけ。
高嶺の花と言われ、先輩と慕った女性が付き合いを承諾してくれ歓喜した、当時の自分が気の毒に思えて来る。
そんな自己保身のみを行動原理とするライザに対し、
嫌われたまま、二度と会えなかったとしたら、ライザに裏切られた時には感じなかった辛さを味わってしまう所だったから、彼は二重に救われていた。
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