第3話 半月
いよいよ年の瀬でせっせと部屋の大掃除をしていたが、使っていない部屋にも埃が溜まるのが納得がいかなかった。彼女としてはもっと小さい、管理しやすい小さな部屋に住みたいのだが、セキュリティの問題があるからと祖父はこのマンション以外を許してくれなかった。
甘えさせてくれないけど縛る事はしてくるのが、なんとも腑に落ちない。お正月になっても会いに行くつもりは全くなくなっていた。
とりあえず大掃除を終えお茶を飲んで一息ついていたけど、何もしないでいるとやはり寂しさが募って来る。例年なら親友と買い物に行ったりと日本らしい文化を堪能したりもしているのだが、今年は一人ぼっちで終わり一人ぼっちで新年を迎えそうであった。
空っぽになったマグカップをキッチンに戻そうと立ち上がり、歩き出したのだが何もないところで彼女は躓いて転んだ。
カシャン、という軽い音を立てお気に入りのマグカップが割れて破片を散らす。
「えーー、掃除したばっかりなのに」
立ち上がろうとして一瞬、右足の感覚がない事に気付いた。
「あれ? 痺れちゃったのかな」
しばらくすると感覚が戻ってきて、ほっとした。無意識に足を組んでいたのかもと立ち上がると、再び掃除をして破片を片付ける。このマグカップは誕生日に
片付け終えると、彼女は割れたマグカップの代わりになるものを買いに行く事にした。ついでに年末年始の食材も買い出ししておいて、三日間は映画でも見てゴロゴロ過ごすのもいいかもと思う。
最近は警察車両を見ない日がないぐらいよく事件事故が起きている。その全部が超能力者が絡むものではないけど、絡む時はスーツ姿の数人が必ずいるのでその事件事故が超能力者絡みなのかどうかは
酔っぱらって超能力を暴走させる人も多いから、彼女が知ってる真面目な公務員はこの年末年始も働いていそうだ。
全くその通りで、彼は昨夜起こった駅前の飲食店でのケンカによる暴走事故の現場確認に、
そして、現場の二階の窓から、その少女を見つけてしまった。
「あ!」
傍にいた部下が、びっくりした顔をして
「どうしました、
「いや、ちょっと所用を思い出してしまった、後の事は頼めるか」
「はい、了解です。報告書はデータで送っておきます」
「頼む」
そういうと少女の後を追いかけた。部下はそんな
「日夏君」
「あ、はい?」
振り向いた
「やっぱり、今日も仕事なんですね」
顔を綻ばせてそう言う彼女の姿を見て
「み、見かけて、つい呼び止めてしまったけど、急ぎだったかな?」
「いえ、ぶらぶらとお買い物なので。何かご用でしたか」
「用があると言えばあるのだが。情報提供を願いたいというか」
「情報?」
少女が表情を改めて首を傾げるので、性急過ぎたかと
「とりあえず、その、買い物を終わらせてからで。荷物持ちをしよう」
「え、そんな。お仕事中ですよね?」
「これも、まぁ、その、仕事だから」
「じゃあ、歩きながら用件を伺います」
「あの、外で話しにくいようなので。お茶を淹れますからうちにどうぞ」
「ごめん、気を使ってもらって」
ソファーに座って出されたお茶を飲みながら、やっと
「君は確か、私立富士見女学院の制服を着ていたよね」
「はい、そうです」
「十七歳、Cランクという子は、何人ぐらいいるのかな」
「言わない子も多いから、詳しくは……」
それもそうだと、
「私、十七歳、Cランクですよ?」
「手術を受けた経験はあるかな」
「それは、ないですね」
「そうか……」
「その子を探す理由が、何かあるんですか?」
「探し出して、どうするんだ、という気持ちはあるけども」
沈痛な思いがその男の顔に浮かび上がり、そのまま貼りついて剥がれない様子に
「手術って最近ですか?」
「いや、十年ぐらい前になるのかな。柏ひなつこども病院で行われたはずなんだが、その方面で君が知っている事はないか?」
「十年ぐらい前なら、そこに入院してました」
「じゃあ、同年齢で手術を受けた子はわかるかな」
「子供だったので、……ごめんなさい」
「結構大きな、超能力の暴走事故が起きた年なんだが」
「暴走事故?」
「あれ、知らないのか。じゃあ入院していた時期が違うのかな。確かその時に、医師が一人亡くなっていたが」
少女が手を口元に寄せて考えに沈み込む。何か、思い出せそうな気がするが微妙に思い出せない。
「あの、私、事務の人と親しいので、聞いてきましょうか?」
「もし、わかったなら教えてもらえると有難い」
「じゃあ連絡先を。わかり次第、連絡します」
「ごめん、こんな事を頼んでしまって」
彼女が携帯を取り出してデータ受信の準備を整えたので、彼は仕事で使っている連絡先のデータセットを彼女の携帯に送ろうとし、手を止めた。そしてスクロールすると、個人用の連絡先を彼女に送る。
「あれ、個人用のアドレスでいいんですか?」
「あ、うん、それで。君のも教えてもらってもいいかな」
連絡先を交換し帰途につく
「何だろう、思い出しちゃいけない気もする……」
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