Latter Half

 翌日の昼下がり――修理したバイクを引き取りに、モーガンが訪れた。


「余計なお世話かもしれないけど、ついでに魔法耐性強化コーティングもしといたから」


「マジで?! めっちゃ助かるありがとー!!」


「けど無茶させれば普通に壊れるから、あまり過信せず大事に使ってくれよ?」


「はーい!」


 綺麗になったバイクで颯爽と去る彼を見送っていると、急に左足首が赤く光った。


 これは魔力センサー――モンスターが発生した際にその気配を察知し、アラートを発動する機能である。


(この向きと明るさだと、恐らく此処から南東に500〜700メートル……市場の方か!?)


 ライリーはすぐさま、市場に向けてスクーターを飛ばした。



 現場では鋭い歯を持つ中型のドラゴン――フリエッタでは使役が禁止されているモンスターを連れた賞金首の盗賊が暴れており、既に屋台の倒壊や負傷者などの被害も発生している。


 確かにこのご時世、生きる為に止むを得ず盗みに手を染める貧民も少なくない。だがその盗賊は違っていた。他者を傷付けることを目的としており、その手段として使役禁止モンスターを無許可で使っているのだ。


(離れた場所の違法使役もちゃんと感知してくれたって訳か。よし、コイツはすぐに実用化出来るぞ!)


 ライリーの義足にはこのような独自に考案・開発した便利機能が多数搭載されており、彼が義足をカスタマイズしているのは『それらが実際に使えるものかどうかを試す為』であった。


(だがその前に、アイツらを何とかしないとな!)


 左の靴を脱ぎ、足裏のジェットエンジンを起動させる。そのまま跳び上がり、盗賊の胸部に踵落としを喰らわせた。


 そして此方に突進してくるモンスターに義足の裏を向けると、ジェットエンジンの噴射口から風属性の攻撃魔法を発射する。


「ウィング・オープナー!!」


「ギャオォン!」


 ――こうして、盗賊の確保とモンスターの討伐は無事に成功した。しかしライリーは……。


「跳び上がった時に出来た凹みも少し深いし、何より魔法発動時に近くの店ののぼりを巻き込んでしまった。実用化を目指すなら、火力調整機能の追加も必須だなー……」


 などと呟きながら、計算式のようなものをメモしていた。


(あの人が賞金首を捕えた今日の勇者か。でもなんか、ブツブツ言ってて怖いぞ……)


 しかしそんな通行人達からの評価は彼にとっては些事である為、幾ら冷ややかな視線を向けられても気に留めすらしないのだ。



「ライリー! お前、賞金首を捕まえたんだって? 凄いじゃないか!」


「お前の実力なら、またすぐにでも戦地に赴けるんじゃないのか?」


「近い内に一発噛ますみてぇだし、そこで活躍すりゃスピード出世間違い無しだぜ?」


 帰ろうとすると、モーガンをはじめとする顔見知りの兵士達に囲まれた。


 彼等が尊敬の眼差しと共に賛辞を送ってくれること自体には悪い気はしないライリーだが、喜ぶ素振りは見せなかった。


「悪いけど、俺は戦場には戻らない。足もコレだし心も折れちまったから、もう戦えない」


 彼の言葉に、兵士達は沈黙する。


「けど、何も出来ない訳じゃねーぜ? だからせめてアレくらいは――お前らの帰る場所を守ることくらいは、俺に任せてくれよ!」


 そう言ってニカッと笑ってみせると、兵士達も顔を綻ばせた。


「お前がそう言ってくれるなら心強いぜ!」


「また会う日まで、お互い頑張ろうな!」


「じゃあもし俺らが無事に戻って来られたら、また装備の修理してくれるか?」


 モーガンが問い掛けると、他の兵士達は固唾を飲む。


「当然だろ? 工具磨いて待ってるからな!」


 ライリーが答えると、兵士達の心は安堵と歓喜で満たされた。



 それから数日後――フォストワード氏が出発する前夜、ライリーが彼の部屋を訪ねた。


「おや、どうしたんだね?」


「旦那に、俺からの陣中見舞い」


 手渡したのは、シンプルな懐中時計。


「蓋の裏側が写真入れになってるから、そこに息子さんの写真でも入れて『御守り』にすると良いよ」


「ほう……?」


 蓋を開けて確かめると、文字盤の下にも何かの仕掛けが有った。


「(この構造は、手榴弾に似ているな? ――成る程、そういう意味でも『御守り』という訳か。ライリー、君は本当に器用で優しい子だ……)ありがとう。大事にするよ」


 フォストワード氏が慈しむように微笑むと、ライリーは得意気な笑顔を見せた。


 彼等の戦いはまだ始まったばかり――否、ここから始まるのであった。

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彼が工具を握る理由(ワケ) 青海月 @noon_moon

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