【奨励賞】 浸透圧
浸透圧
著・和栗
https://kakuyomu.jp/works/1177354054917569038
有機栽培するおばあちゃんのレタスについていたナメクジに塩をかける行為から、同調圧力の窮屈さに気づき、自分はナメクジではないと証明するために塩をかける作品。
よくできた作文と思わされる現代ドラマの短編だ。
浸透圧、というタイトルもいい。
生物の細胞は細胞膜に包まれている。水などの小さい分子は通すが、それより大きな分子は通しにくい。なので、両側に濃度が違う溶液が置かれると、濃度の薄いほうから濃いほうへと水の分子が移動し、同じ濃度へと変化する。この水を移動させる圧力を浸透圧という。
ナメクジの体内には、約八十五パーセントの水分が含まれている。おまけに体の表面は水を通しやすい構造をしているため、塩をかけられると細胞内の水分が塩のほうへと移動し、体が縮むのである。
野菜も同様に塩をかけて放置すると、水分が出てしなびていくのも浸透圧の働きによる。これを利用して漬物は作られている。
ちなみに砂糖をかけても浸透圧が起きるため、ナメクジは縮んでしまう。ただし、砂糖の浸透圧は塩ほど強くないため、量と時間が必要となる。
また、ナメクジを使って酢や片栗粉でも浸透圧は起きるのかを実験したことを思い出させてくれた作品だった。
棒読みちゃんを使って音声で聞く分には気にならなかったものの、段落の一文字目を下げてくれると読みやすい。
「ある日、中学校だったか、学校の授業で浸透圧を知った」など、どこか遠回しな表現が多かった。言い切る断定の表現にしたほうが文章が締まる。作品の全体的バランスを考えながら、わたしなら推敲する。推敲して、遠回しな表現がいいところは、活かせばいい。
実際、私がナメクジをみつけたときは塩を使わず外につまみ出していた。殺生したくないからだけど、それでもなんとかしないといけない時は賞味期限切れのビールを使ったことを思い出す。
シンプルで淡々として、作文のような書き方の小説を書きたいと考えているので、この作品は励みになると感じた。
【再読の追記】
隣のおばあちゃんについて。
主人公とはどういう関係なのだろう。
親戚なのだろうか。
それとも、本当に隣の家に住んでいるおばちゃんなのか。
祖母なら「隣の」とは表現しないだろう。
だとすれば後者の、昔から家族ぐるみで付き合いのある隣のおばあちゃんに違いない。
なぜなら、主人公は務めるようになってからもおばあちゃんとは交流があるように書かれてある。でなければ、「段ボール箱が送られてきた」りしないだろうし、「またおばあちゃんに、レタス送ってもらおうかしら」とは思わないだろう。
そんな隣のおばあちゃんは、ご近所の農家から無農薬レタスを頂いている。
おそらく、ご近所付き合いをしている農家さんだろう。
他に作ってる野菜も、きっと無農薬。
おばあちゃんは畑仕事をしていないか、あるいはレタス以外の野菜を作っていて、お互いにおすそ分けしている仲かもしれない。
自分のところで作る野菜には虫はつかないけれど、いただくレタスには虫がつく。
おばあちゃんはどんな思いで、ナメクジをシンクに投げ入れているのか。
有機野菜農家の吉田俊道さんの話によれば、「虫はまずい野菜につく」という。
農薬をつかわないということではなく、元気な土を作れば、美味しい野菜ができるそうだ。元気な土とは、微生物が豊富な土。微生物では分解が間に合わないときに、虫が来る。農薬をかけると、その分解者である微生物や虫がいなくなって循環しなくなる。
微生物が豊富な土で作れば、ナメクジもつかなくなるやもしれない。
ひょっとすると、隣のおばあちゃんはそれをしっていたのではないだろうか。
自分のところの畑は、微生物が豊富で元気な土だから虫がつかないけれど、近所の無農薬をしている農家のところは元気な土じゃないんだと見抜いているからこそ、小さな鬱憤を晴らすかのようにシンクに放り入れていたのではと邪推してみた。
そう考えると、主人公の「同調圧力かしら、浸透圧かしら」という思いが、如実に感じられてくる。
ナメクジをみていると、「自分を見ているような気持ちになる、惨めになる」のもわかってくるではないか。
深堀りできるような描写がある作品を書いてみたい。
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