【奨励賞】 カルシと老人

カルシと老人

著・虻瀬 

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891321217


 狼の名をカルシ、ゲン、スティーブと呼び分ける老人が狩りのさなか敵国の隠れ兵に射殺されて絶命する物語。


 狼視点で語られているところが、独特な世界観をつくっている。「すとおぶ」という表現は面白い。だとすると、終わりの方で「身体から赤い絵の具を流していた」という比喩は狼視点からすると、適切なのか気になる。

 トナカイはアイヌ語を語源とする和名で、馴鹿と書き「じゅんろく」とも呼ぶ。また、ヨーロッパ産の馴鹿を「レインディア」と呼ぶ。カリブーは英語で北アメリカ産のトナカイのみを指す言葉なので、物語の場所は北アメリカと読める。

 兵隊が老人の家をたずねてきたときの「遠くから北風と共に火薬の匂いが降ってきた」という表現はよかった。この後、窓から外を覗いて兵隊が「やってきたのを見た」とあるけれど、「やってくるのを見た」とすべきか。あるいは、狼なのだから、稚拙さがあってもいいのか。だとすると、全体的に故意に稚拙さを出したほうが味が出るのかもしれない。

 緑の帽子の兵隊ということは、グリンベレーなのかしらん。時代背景がわからないので、決めつけは良くない。

 第二次大戦中、イギリス軍の特殊部隊が制帽として採用したのが起源とされているため、大戦中の話かもしれないし、大戦後かもしれない。作者しかわからないけれども、前者を想定して創作したのかもしれない。

「青なのか白なのか曖昧な風情の天井と、白なのか青なのか曖昧な表情の氷雪」のところは面白い表現であるとともにわかりにくかった。風情と表情を対にしたかったのかもしれない。むしろ「曖昧な天井」「曖昧な氷雪」としたほうがスッキリしてわかりやすいと感じた。このあたりは、狼視点としてどういう表現が適切か、作者の思案するところだろう。

「青である白も、白である青も、全部が一瞬黄色に染まった」

 これは撃たれた光景の描写だろうか。辺りが一変したことを、狼視点で描写しているとおもうけれど、イメージが湧きにくい。それでも狼視点で描くところに、この作品の良さがある。

 人でないものを主人公にした作品を書いてみたい、そう思った。

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