雪に足跡を残して

 雪の上に残してきた足跡は、家に近づくにつれて、うっすらとなっていった。しかし、ふたりの後ろには、新しい足跡が残されていった。


「お金、忘れてしまいましたね」


 のぼる雪水ゆきみも、お金を一銭も持っていなかった。


 月光が斜めに傾きはじめた。いまが何時なのか、時計を忘れた旗には、わからなかった。ただ、どんどん明け方に近付いているのは、確かなようだった。


「初詣なんて建前だっただろう」

「でも……おみくじ、引きたかったです」


 雪水は、どこか眠たそうな顔をしていた。旗もまた、二時間くらいしか身体を休めていなかったため、いままでの疲労が、どんどん感じられるようになってきていた。


「もう一度行けばいいだろう、幹人みきとと。もともと、そういう予定だったんだから」

「お兄さんはどうするんですか?」


「僕は疲れたから寝てる。昼くらいまで起きない」

「それは私だって同じです。幹人くんに身体を揺らされても、起きられる気がしません」


 冬の冷ややかさもまた、少しずつうとうととしていった。


「もし……私がお兄さんのふとんで一緒に寝ていたら、どうなるんでしょうね?」

「真っぴらごめんだね」


 雪水は、ようやく笑った。


「あ、お兄さん、あそこに傘が落ちていますよ」


 あのとき、旗が持っていた傘が、雪にもれていた。ただ、持ち手の部分だけは、しっかりと顔をのぞかせていた。


「本当だ。よく見つけたね」

「お兄さんも私も、まるで、最初から無かったみたいに忘れてましたね」

「そうだね……でも、知らないうちに消えてしまったり、そんなことはないんだね」


 旗は、持ち手を強く握りしめて、雪の中から傘を引き抜いた。開いてみると、雪がバサバサと落ちてきた。


 とつぜん、雪水ゆきみが、のぼるの背中に身体をあずけてきた。急なことで、旗はよろけそうになった。


「どうしたの?」


「意味はとくにないんですけれど、なんかこうしたいなって」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家を抜け出して、雪に足跡を残して 紫鳥コウ @Smilitary

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ