「ちょっと振り返ってごらん」
「
雪水は、涙を指でぬぐって、ゆっくりと振り返った。
そこには、雪の上に残してきた、ふたりの足跡があった。
「雪水ちゃんは、幽霊のように、足跡をつけずに歩いてきたわけではないだろう。こんな、雪につけた足跡なんて、明け方には消えてしまいそうなものだけれど。でも、いままでの人生で刻んできた足跡って、退屈さが残されていないんだよね……退屈は、ずっと、いまにあるんだから」
雪水は、こう言った。
――――お兄さん、もう、行きましょう。
強い風は止んでしまった。冷ややかな、色のない、張りつめた空気が、ふたりのシルエットを、静かに包みきっていた。
「うん、行こう」
すでに、鳥居は見えている。
最後の一段のところで、
旗は、自分が生まれ育った村を見おろした。家々の姿は、降り積もった雪のせいで、はっきりとは見えない。しかし、この村でたくましく生きる人びとの寝息だけは、聞こえてくるような気がした。
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