10話.[変わらないのだ]
「黒田っ」
「こ、声が大きいよ」
1月になってもう20日が経過した。
外はめっちゃくちゃ寒いというのに彼女は大変元気だ。
「黒田はチョコ欲しい?」
「好きだけど」
「分かった、じゃあ作ってくるね!」
あ、バレンタインデーの話か、また随分早いときに聞くもんだな。
「ふぅん、やっぱり三菜と仲いいんだから」
「違う違う、僕が不快とか言われていたの聞いたでしょ?」
「あんなの本心からじゃないの分かるし」
ああ、こんなときだけど拗ねられるって幸せだ。
だって相手は僕だよ? 格好いい皓平君とかじゃなくて嫌われ者だったはずの僕なんだから。
「機嫌直してよ、君が1番大切だから」
「……なにか不都合なときはそうやって躱そうとするよね」
「待って、もしかして僕が初めてじゃないとか?」
「……初めてですけどなにか?」
「良かった、もしそうじゃなかったらその元カレさんのところに突撃するところだったよ」
それでいまは僕を好きになってくれていますけどねと言って暴走しているところだった。
危ない危ない、それと良かった、片方だけが恋愛経験豊富というのも複雑だから。
「衿花さん、僕にチョコレートをください!」
「知らない、三菜にでも貰っておけば?」
「そう言わないでさあ……」
「……調子に乗ってる、少しは謙虚だったあの頃に戻った方がいい」
「うぅ、君の言う通りだよ」
浮かれないわけがないじゃないか。
異性の友達ができただけではなく、初めての彼女になってくれたんだから。
「嘘だよ……作ってくる」
「あれ? だけど作れないんじゃ……」
「か、叶子が得意だから一緒にやれば大丈夫だよ」
当日の僕には頑張ってもらおう。
大丈夫、大切な子から貰ったお菓子ならいくらでも食べられるさ。
何故か冷や汗が止まらないんだけど、それは何故だろうか?
「黒田君、湯浅さん」
「「あ、丹羽先輩」」
今日も今日とて美しい丹羽君のお姉さんがやって来た。
ここにあの元気な皓平君はいないから衿花に用があるのかもしれない。
「黒田君はチョコってお好きですか?」
「え、あ、はい、好きですけど」
「ふふ、分かりました、それではこれで失礼します」
ああ、出ていった瞬間に手をつねられてしまった。
しかも「ほらやっぱり」とか言って勘違いしてきているし……。
「多分、丹羽先輩が優しいだけだよ」
「ふぅん、じゃあ私からのはいらないね」
「いるよっ」
それがなくなったら普通に泣ける。
「……じゃあ作るの手伝って、いやほらっ、毎年叶子にばかり迷惑をかけるのは違うからさ! 働かざる者食うべからずって言うし、食べたいなら亮も……」
「分かった、一緒に作ろうか」
「うん、そういうことで」
教室だから手を握ったりはできなかったけどちゃんと顔を見て頷く。
大丈夫、衿花を一番に優先していることには変わらないのだと伝わってほしかった。
23作品目 Nora @rianora_
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