09話.[無害な子だから]

「本当に付き合い始めるとはな、おめでとう」

「ありがと」


 4日の朝、丹羽君がやって来てくれたのもあって報告をしていた。

 連絡先を知っているから別に直接じゃなくても良かったんだけど、なんかプライド的なものもあってこういう形にしたということになる。


「姉ちゃんがもう少しで受験だからな、なんか俺の方が緊張するよ」

「でも、言うのは言うんでしょ?」

「当たり前だ、なにも言わずに出て行かせられるかよ」


 強いな、振られると分かっていてもぶつけると決めているのは。

 僕のあれはそこまでのものじゃない、あんなことを考えておきながらも面と向かって否定されていたら多分駄目だった、無駄なことだからって関わることをやめていた可能性があるから。


「って、今日はいないのか?」

「うん、阿部さんとお出かけするんだって」

「彼氏より友達を優先かよ」

「縛るつもりはないからね、楽しくやってくれればいいよ」


 ただこうなった以上、他の男の子とはあんまり仲良くしてほしくないという独占欲が出てき始めていて困っていた。

 こんなことをぶつければ面倒くさい男扱いをされて危うくなるかもしれないから、なるべく言わないようにしておくけどさ。


「良かったぜ、亮が姉ちゃんと仲良くならなくて」

「仮にそうなれていても僕じゃ振り向かせられないよ」

「安心してる、亮が衿花の彼氏になってくれて良かった」


 曰く、実は少し揺れていたそうだ。

 そういう点でも良かったということらしい。

 逆に僕も、衿花が僕を見てくれて良かった、嬉しかった。

 取られるのだけは絶対に嫌だった。


「あ、黒田と皓平だ」

「「げ……」」

「ちょっ、なんで私のときだけ毎回そういう反応なのっ」


 それは自分の胸に聞いてほしい。

 もう和解ということになったけどしたことには変わらないんだから。


「ま、まあいいや、それより黒田に用があったんだ」

「じゃあな亮」


 彼は歩き出しつつ「いやほらいたら邪魔みたいだしな」と言ってきた。

 最悪だ、振られてしまえ――なんてことは考えなかったが、微妙だった。


「それで? 酒井さんはなんの用があるの?」

「あ、ちょっと付き合ってよ、お買い物に行きたくて」

「彼氏を誘えばいいのでは?」

「い、いいからいいからっ、ほら行こー!」


 ぐぇ、何故か異性の方が力が強いんだよなと悔しい気持ちに。

 ただ、どこか楽しそうだったから水を差すようなことはしなかった。

 嫌われるわけではないのならそれでいい、その方がいい。

 それにあれからは無害な子だからね。

 拒絶ばかりしなくていいだろうと片付けて付いていったのだった。

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