マンドラゴラオチ

かぎろ

森の神殿

 森の神殿・聖剣の間。

 ガラス張りの窓から薄緑色の光が降り注ぎ、大理石の床を仄かに照らす聖域。

 広く、天井も高い、荘厳な空気で満ちるその場所へと、勇者たちは遂に到達していた。


「……やっとだ」


 剣士アルスが呟く。すると、三人の仲間がアルスの隣に並び立つ。


「そうだな、アルス。やっと、ここまで来たぜ」弓使い・ゲイル。

「いろいろあったけど……これで魔王を倒せるようになるんだよねっ!」格闘家・フェイフェイ。

「……つかれた。……でも。……来られて。……嬉しい」魔法使い・リーネ。


 アルスは頷き、仲間たちを見る。そして腰に取り付けていた、空の鞘を握りしめた。


「この鞘と聖剣が合わされば、創造神の力を借りることができるようになる。そうしたら、必ず魔王にも、勝てる」

「ああ。……頼むぞ、アルス。伝説の勇者の血を引くことは、おまえにとっては重荷だったのだろう。迫害されてきたことも知っている。だが……」

「大丈夫」


 ゲイルに微笑みかけ、アルスは力強く言った。


「僕は勇者として魔王を倒し、民を守る。もう迷いはない」

「そうか……。強くなったな」

「アルスかっこいい! よおし、聖剣、抜いちゃおー!」

「……勇者にしか。……抜けない。……私たちは。……あなたが頼り」

「うん。みんな、ありがとう」


 アルスは踏み出して、神殿内の聖剣の間を進んでいく。

 そして、聖剣の台座を見下ろした。


 今まで、たくさんの冒険があった。氷雪の神殿での謎解き。剛炎の神殿でのドラゴンとの戦い。泥闇の神殿を攻略後、崩れ落ち始める神殿から脱出する時、自分を庇って死んだ仲間を思い出す。彼のためにも、必ず旅を完遂する。それだけではない。救えなかった命があった。魔王直属の配下を倒すため、その身を犠牲に極大魔術を行使し、相討ちにまで持ち込んだ者。敵の幻惑魔術により視界の悪い砂漠で、流砂に呑み込まれ、戻らなかった者。実力の足らないアルスたちのため、たったひとりで魔王の配下たちを複数相手取り、最期まで時間を稼いでくれた者。


 アルスは救いたかった。幼い頃、焼け野原になっていく村の中で、がむしゃらに生存者を探した。その時の両手の火傷は今でも残り、記憶を肌に刻み付けている。それでも心の原風景は、のどかな故郷の情景だった。


 平和な世界を取り戻したい。


 守れなかった者と、守りたい者、これから守るべき者のため、アルスは今こそ、聖剣を抜く。


「僕は……!」


 台座に突き立った聖剣、その柄を両手で掴む。


「聖剣を抜き、魔王を倒す……」


 そして、上へと引っ張った。


「勇者――――アルスだぁッ!!」


 聖剣だと思っていたものは実はマンドラゴラだった!


マンドラゴラ「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


アルス「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ゲイル「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


フェイフェイ「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


リーネ「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


魔王「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ダニエル「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 死んだ!




 おわり

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