第6話 正座をしたあとは豪勢な食事が待っている

かれこれ一時間くらい正座しているだろうか。


勉強会と称して、僕は七海の部屋でずっと正座をしている。


そろそろ足は限界だ。というか、限界はとうに超えている気がする。


「あの…僕はいつまで座ってればいいんでしょうか。」


と、僕は恐る恐る、問題を静かに解いている七海に聞いてみる。


実をいうと七海はここまで、部屋に入ってきて、「正座」という一言しか話していない。


僕はすぐに何か言ってくれるだろうとたかをくくっていたが、今回はそうではないらしい。


ジロッ


こちらの声が耳に届いたようでここで初めて目が合った。


おっ、そろそろ何か言ってくれるか?


しかしその期待はすぐに消えてしまう。


七海はその後すぐに手元の問題用紙に目を移してしまったのだ。


ああ、なぜそんなにも怒っているのだ。


もういいだろと思いつつ、痛みで集中できない中僕も問題を解いていくしかなかった。


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「ねえ。」


そう七海から話しかけてきたのは、勉強会(?)が始まってから2時間が立ったころだ。


七海が問題もとうに解き終わり、まだ先の定期考査に向けて復習までし始めていた時だった。


「正座解いていいからここ教えて。」


七海が不機嫌なのは変わっていないようだが、ともかく許しが出た。


「分かった。」


僕はそういって足を崩そうとする。


しかし、足は動かない。鉄のようになってしまったかのように重い。


というか、僕の足の神経は生きているんだろうか。


「七海。すまん。ちょっと時間をくれ。足が動かないんだ。伸ばすまで長くなりそうだから違う問題やっといてくれ。」」


七海の顔は不機嫌なままだ。


僕は、苦痛に耐えながらもそういった。


「いま教えなさい。手伝ってあげるから。]


手伝う?まさか七海…やめろ、やめろおおおおおーーーー!


七海は僕を横に倒し、伸ばせなくなった足を無理やり伸ばした。

「あああ」


自然と言葉にならない声が漏れる。


そして圧力から解放された足に、血液が一気に流れ込む。


熱い。焼けそうだ。


そう思ったのもつかの間、膝から下に強烈な痺れが襲った。


「あああ」


またも言葉にならない声が漏れる。


七海は横たわってゾンビのような声を出している僕を見下ろしていた。


「ねえ優理。」


僕は答えることができない。


痺れが強すぎて声も出せないからだ。


「なんで私の言葉に反応しないの?ねえ。」


不機嫌な七海は、そういうと、俺の足を軽く蹴ってきた。


「うああ。」


痺れが蹴られた場所を中心に体に響く。


「ねえ」


「ああ」


「ねえ」


「うう」


「ねえ」


「おうっ」


「ねえ」


「うあ」


「ねえ」


「ああ」


こんな感じのことが20回くらい繰り返されたときに、僕のしびれが少しづつ取れてきた。


「ねえ。」


「なっ七海。待ってくれ。」


何とか返答することができた。


「なんだ、もう痺れが取れてきちゃったんだ。つまんないの。」


と七海は不機嫌な様子で言ったが、蹴ることはやめてくれた。


僕は、少し、足を伸ばした後、息を吐き、落ち着いてから


「どんな問題が分からないんだ?」


と聞いた。


七海はここなんだけどと、問題を見せてくる。


「あーこれはだな…」


そうして、問題を解説していく。


「あー!そうなんだ分かった!ありがとう優理!」


と笑顔で七海は僕に言った。


しかしなんだ、七海の呑み込みが妙に早かった気がする。


本当に理解してるのか?


「七海、本当に理解してるのか?」


「してるよ、ここがこうでしょ。」


七海は、問題をすらすら解いていく。


「なら問題ないんだけど。」


自分の宿題も終わったし、禊も終わったみたいだし、僕は帰るか。


そう思い僕は、片付けをし始めた。


「優理何してるの。これからは、お楽しみのおしゃべりタイムでしょ。夜ご飯はお母さんに言って、作ってもらう予定だから大丈夫だよ。」


そういうと七海は、笑顔で言ってきた。目は笑っていなかった。


「ふーん…そっかあ。なるほどね。」


僕は、お弁当がすごい美味しかったこと、秋月が羊羹が好きだということ、そして、これからちゃんと彼氏になる努力をするということを改めて話した。


「ああ、こんなもんだよ。昼休みにあったことは。」


「なるほどねえ。そっか、決意したんだねぇ。」


とにやにやしながら七海はこちらの方を見てくる。


「ああ、そうだ。僕は頑張るつもりだ。」


「まあ頑張れ若人よ。優理が決意したんだったら私は応援するよ!」


と七海は、僕の肩をバンバンたたきながら言ってくる。


「あ、ありがとう。……ちょっ、痛いって七海!肩をたたくのやめてよ。」


「やめなーい!優理に対しては、変わらずちょっかいを出し続ける。そう決めたの!」


なんて迷惑な宣言なんだ。そう思いつつ、僕は笑みがこぼれる。


それにつられて七海の笑みもこぼれた。


「優理!」


急に大きな声を出す七海。


「なんだ七海?」


「これから私たちずっと仲良くいようね!」


七海が笑顔で言ってきた。屈託ない笑顔だ。


「ああ、そうだな。」


そう、返事をすると、七海は笑顔のままでいたが、なぜか少し気落ちをしているようにも見えた。


勝手に予定を立てられていた僕は夕食を七海の家で食べることになっていた。


目の前には、豪勢な食事が並ぶ。


「ひさしぶりねー。一緒にご飯を食べるのは。おばさん気合入れちゃったわ。」


そういってきたのは、七海のお母さん明子あきこさんだ。


「いえいえ、急にご飯を作っていただきありがとうございます。」


と僕は素直な気持ちで感謝する。


「いいのよー。この子に勉強を教えてもらっているのだし、どうせ、この子から急に連絡が来たから、こっちの都合で突き合せちゃったんでしょ。こちらこそごめんねー。」


そういいながら、ご飯をよそう明子さん。


こう見ると、完全に七海の見た目は、明子さんに似たんだなって感じる。


背の低いところとか、顔が幼いところとか、パーツパーツも似ている。


性格は完全にこの場にはいないけどお父さんよりだなとおもう。


そんなことを考えつつ、ありがとうございますといってご飯を受け取る。


「「「いただきます」」」


全員がそろってご飯を食べる。


僕はおなか一杯になるまでご飯を食べた。


すべて美味しかった。


食事後、少したって僕は、家に帰るために玄関に言った。


「ごちそうさまでした。」


と明子さんに言う。


「いいのよー。また来てちょーだい!おばさん待ってるからね。」


屈託のない笑顔で明子さんは言ってきた。


「ありがとうございます。」


素直に僕はそう返す。


「優理!……また明日ね!」


一瞬何かを言いたそうにしていたが、気のせいなのだろう。


「ああ、またな。」


そういって僕は隣の家に帰った。


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君の香りはもう思い出せない~クーデレな彼女を思い出す最後の方法~ @rakunamon

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