第123話 【外伝】勇者タカムラは腹が減っている その2


 あれよと俺は異世界転移人として、同時に勇者として、神聖セイコー帝国の召喚に応じる形で転送されたのだった。


 儀式の突然の成功により、向こうについてからは大騒ぎの連続だったと書いておこう。それはもう、祭司だった例の王女が失禁してしまうくらいに。


 結論から言えば『ルー』の称号を持つ幼き王女は、儀式による極度の緊張下、まさかの勇者召喚成功で驚いてお漏らししてしまったにしても、実年齢九歳の観点からすればしっかりしていて、その上でちゃんと女の子らしくもあり、可愛かった。


 アリスコンプレックスに目覚めそうだった。

 いや、今となってはロリータコンプレックスか。


 この世界には児童ナンチャラ法などないのでどうでも良い話だが。というのも国を上げて勇者たる俺と王女をくっつけようと動いているのだから。


 王女の名前は、アイラ。月の光という意味を持つ。俺の許嫁である。


 それからというもの、勇者らしくというので魔物を討伐したり、人に害を振りまく吸血鬼を討伐して見たり、元世界で言うところのバイキングみたいな略奪者から帝国民を守るために戦ったりと結構忙しかった。


 ちなみにアイラとはキスくらいしかしていない。実はこのキスは王女としては操をあなたに捧げるくらいの意味合いがあるらしいのだが……。


 やべえわ、幼女とキスとか。元世界だったら絶対逮捕されるからな。


 それからときは過ぎて四年後。さすがに異世界暮らしにも慣れるというもの。


 まあアレだ。住めば都というヤツだな。勇者の身分が高いおかげもあって、日常は意外なほど快適生活を送っていた。

 殺伐とした戦闘も、四年も繰り返せば慣れるというか。


 しかし、それでも。


 やべーな、と思ったのはオリエントスターク王国で聖女と崇められるキリウ・レオナと出会ってしまったことだった。


 何がやべーって、知らずの内に愚息が限界勃起していたのだから。


 自分でもびっくりした。

 あんなエロ可愛い子がこの世に存在するだなんて。


 白い肌に涼しげに整った顔立ち、長いまつ毛。サラサラの髪の毛。


 何より――デカいおっぱい。


 澄んだ声を聴くだけで、身体が彼女の体温と快楽を求めてゾクゾクしてくる。


 男の願う、理想の女の子像というものがあるだろう。


 なんというか、いい匂いがして優しくて可愛くてちょっと気が弱くて、みたいなアレ。中身は伺い知れないが、彼女は、いい匂いがして優しそうでそれでいて惚れっぽいような、男をその気にさせる危険な何かがあった。


 涼し気な顔立ちなのにそれに反して熱を帯びている。

 見るだけで海綿体に血が滾ってくる。


 あの、ぷるりとした唇と口づけを交わしたら、俺はそれだけで絶頂を貫いて五回くらい連続射精してしまう自信がある。


 それくらい神々しく、同時にエロく、まるで美の黄金比に祝福に呪いまで付与してしまったとしか思えぬほど魅惑に満ち満ちていたのだった。


 彼女、正体は魔族のサキュバスクィーンとかじゃねぇよな?


 いいえ、同郷の異世界転移人です。

 どちらかというと俺に準ずる被害者というか。


 しかし一つ、これまた彼女のおっぱい並みにデカい疑問がある。

 あるいは俺の記憶の異常かもしれないが。


 記憶を揺るがしそうで怖い話――、

 俺の知る前世世界でのキリウ・レオナは、男だった。


 今世では俺自身が桐生学園ミスカトニック高等学校に入学しているので、前世と相対的に、桐生とはより近い立ち位置になっている。


 が、そもそも基本となる年代が十年以上違うため、今世の彼女にはまだ出会ったことがなかった。しかも、もっとややこしいことに、転移したときの年齢は俺も彼女も同じ十七歳だったが、俺はすでに四年の歳月をこっちの異世界で暮らしていた。


 俺の記憶では、女みたいな顔立ちではあれど、れっきとした男だった……はず。


 桐生学園ミスカトニック高等学校、男子生徒用の制服を着ていなければ、いや、着ていたとしても女子のコスプレみたいだったが、染色体は男のそれのはず。


 前世と今世とでは、何か事象面で違う結果が起きつつあるのだろうか。


 今回、試合形式の決闘で対峙したとき確認したのだが、俺判定ではキリウ・レオナは完全に女の子だった。


 剣戟の際にふわりと届く彼女の体臭は、年頃の少女独特の、成長を伴う非常に良い匂いがした。あー、くんかくんか。いいにほい。おっぱいにむしゃぶりつきてぇ。


 こう書いてはまるで変態だが、不可抗力を訴えたい。だって俺、男だもの。


 人としての野生というか本性というか、子を産める時期に至った女性が醸すあのホルモン臭は、男には堪えがたく良い匂いと感じさせるものだった。


 知っているだろうか、女性の肉体として子を産むのに適した年代は、十代後半が一番に挙げられるということを。


 唯一男の残り香を感じるのは一人称を『僕』と称するところか。


 だがそれだけだ。ボクっ娘は、実際に存在しうる。

 少なくともゼロではない。

 ゼロではないとは確率的には『有り得る』ということ。


 それにしても、奇跡のようにエロ美しい。

 それでいてとんでもなく強い。


 古式剣術、えーとなんだったか。そう、介者剣術。巷間に残るお上品な剣術ではなく、敵を確実に殺すための実戦剣術。阿賀野流戦国太刀の使い手。


 ただし元世界ではもっと強い、アニメや漫画とかに出てくるようなバケモンみたいなやべぇ達人がいるらしい。マジかよ元世界も大概だぜ。修羅の国かよ。


 どうであれ、俺では何をどうやっても勝てそうにない。


 勝てないと言えば、俺は性欲的にも色々と不味いことになっている。隙あらば、わが不詳の愚息が彼女の股の内側に入り込みたいと大勃起するのだった。


 どうかして彼女を組み伏せて一物を挿入し、爆発的な量の精を胎に放つことができるなら、このまま死んでもいいという気持ちにすらなってしまう。


 完全敗北である。


 神々しいほどの彼女を前にして、勃起を抑えるのには大変な苦労を要する。できれば脳に直結した賢者タイムスイッチでも欲しいところだった。こう、如来が頭に降りてくる感じで即解脱、みたいな。


 神子としてのアイラの預言通り、試合に負けて勇者として彼女に魔王軍撃退に連れられたその夜、俺はあてがわれた寝室にて抜かずの五連発、手淫にふけった。


 愛しいアイラをオカズに、精神的に汚すのはできない。YESロリータNOオナニー。だが、キリウ・レオナ。彼女なら俺は遠慮なしに夜のオカズに出来た。


 めちゃシコ! これがまた気持ちが良いのなんのって!


 付録みたいに彼女についている、あのピンク髪のエルフ幼女が羨ましい。

 後々に知るのは、あの幼女は実はナイアルラトホテップの顕現体、かつ、この星の初代力弱き神々の守護者なのだという。


 両性具有で、でも基本は幼女で、とんでもなく甘えん坊。

 夜は彼女とベッドで二人、ぺろぺろちゅっちゅしているらしい。


 なんなのそれ。色々と属性盛り過ぎじゃねぇ? くそ、勃起が止まらん。


 盛大に話がズレてしまったので少しばかり軌道修正をかけるとする。


 俺が前世で死ぬ原因となった一番の理由は、桐生一族の、特にキリウ・レオナについてフリージャーナリスト根性で調べてしまったからに他ならない。


 歴史史上、最悪の事件に次ぐ事件、天災まで引き起こして死者の延べ数が三千万人を優に超えた、かの出来事。


 底深い裏世界の最奥で囁かれた噂。


 あれは、人為的であると。事象の変遷をすべて計算し尽くし、バタフライエフェクトをわが物に神の御座を御したのは『キリウ・レオナ』であると。


 実際のところは闇の底だ。事実はどうだか知らん。


 調べて殺された俺が言うのだから確かな情報源と言っても良いだろう。

 ソース元は俺、というやつだった。曰く、偶然が三つ揃えば必然ともいうが、しかしときに偶然とはえげつないほどの悪戯をやらかすもので。


 物凄い低確率で、偶然を十も百も千も繋げたりする。

 ゼロでなければ、そういう宝くじの一等賞みたいな確率はある。


 だから、もしかしたら、すべては単なる偶然が折り重なったがゆえのもので。

 たまたま、本当にたまたま――、

 偶然という名の歯車と歯車が合致してしまったがゆえに。


 しかし……それならば……なぜ俺は殺されたのかの疑問が残る。


 超巨大神性の分霊、ユキカゼ=ヨグ・ソトースは――、

 なぜ俺を前世世界から抹消したのか。


 分からないことだらけだ。


 俺をこの世界に勇者として転移させたはずの、光神の意図も分からない。

 使命を与えず、それらしく勇者のポーズを取れば良いなど、意味不明だろう。


 勇者とくれば、魔王。逆もまた真なり。魔王とくれば、勇者となる。


 ただ、この世界の魔王とは絶対的な悪の象徴ではない。

 種族としての魔族。その王である。


 むしろ人族との生存競争の相手、その象徴が魔族である。

 どちらがこの世界の生存権と覇権を握るか。


 元世界で例えるならば、

 ホモサピエンスvsネアンデタール人などと、そう言う間柄だった。


 俺を召喚したと目される光の神ファオスは、人族の後見を(レオナ注釈、後年になって判明するのですが、コウタロウ氏を召喚したのはイカヅチとイナヅマ、通称ライデン神なのでした。二重の「「」」←が決め手ですね)。

 狂える闇の神、スコトスは魔族の後見を。


 互いに競わせて発展を促す。

 すべからく競争相手の不在は腐敗をもたらす。

 それを防ぐために切磋琢磨する。

 絶え間ない破壊と再生が、永遠の繁栄を約束するのだった。


 なんにせよ、とりあえずわけがわからんことだけはよくわかった。


 そうそう、あとはイヌセンパイというけったいな存在。

 現、力弱き神々の守護者。


 なんなのだそのテキトーな名前は。犬先輩って、まるであだ名じゃねえか。

 しかも聞き覚えがあるのが腹が立つ。元世界で犬先輩と呼ばれる人物とは、天才悪魔と呼ばれた、南條公平なんじょうきみひらという美少年を差す。


 コイツはなぜか常に柴犬を連れている奇人変人だった。

 本当にどこへでも、セトと名付けられた柴犬と共に行動し、衣食住のすべてを犬ありきの生活で成り立たせるのだ。


 たった十六歳で微分子工学と考古学の博士号を取得し、本場マサチューセッツ州のミスカトニック大学とその分校扱いの桐生学園ミスカトニック大学で名誉教員として在籍、また、研究者として桐生の千早赤阪村先端医療大学病院にも籍を置く。


 まさかイヌセンパイとは、コイツのことか?

 ないと言い切れないところが恐ろしい。


 絶対にコイツ、裏でコソコソと良からぬ暗躍しているぞ……。


 あー、わからんわからん。

 考えても無駄なことは、脳のリソースを無為に浪費させるだけで得る物がない。


 それよりも今夜のメシはなんだろうか。


 キリウ・レオナ、いや、レオナちゃんの飯を食ってから、舌が肥えて困るぜ。

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クセモノ聖女、異世界にてあらゆる方面で無双する。 五月雨一二三 @samidareiroha

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