NO3. 魔声の獣・音々


「やっぱあたしも出るわけ?」

「たりめェだろあと四つも枠余ってんだぞ」


 二人はすぐに決まったものの、残り四人を同盟内の誰にするかでやや揉め始めた。

 何せメインアタッカーといえば旭・アルのツートップだったのだ。大体いつも先陣を切るのは決まってアルだったし、他は後衛やサポートに回っていた。

 だが少なくとも音々はやれる。それはアルも良く知っていた。

 ニットワンピースの余らせた袖から見せる指先で後頭部をガリリと掻く。ふくらはぎまで届こうかという茶の長髪を揺らして、渋々といった面持ちで顔を上げる。

「ボスも…まあ、そういう意見なのよね」

「出てくれればありがたいね。もちろん無理強いはしないけど」

「いや出ろ。絶対出ろ。出なけりゃ殺す」

「むしろこの狂犬で枠一つ使っちゃっていいの?始末するなら喜んで手を貸すけど」

「なんで君らはいつもそう険悪なかよしなんだろうね」

 鼻先が触れ合うほどに顔面を近付けてメンチの切り合いを始めたアルと音々に旭は深い溜息を堪えられなかった。会う度にいつもこれである。よく飽きないものだと感心するほどに。

「テメェ昔はオレと素手で殴り合える程度にはれてたろうが。今更後ろで唄ってるだけですとか言わせねェぞクソ魔獣」

「あの時のアンタまだ普通のクソザコ妖精だったじゃない。悪魔になってから急にブースト掛かったけど」

「利き手が残ってりゃ腕は一本で充分だよな?」

「あ?せっかく人が褒めてやってんのになにキレ散らかしてんの?一生悪夢にうなされて起きれない子守歌聴かせてあげましょうか?」

「―――話がっ!進まない!白埜ヘルプミッ!!」

「……しょうち」

 胸倉を掴み合う両者の間に旭が腕を差し挟んで、出来た隙間に白埜の小さな体が割り込んだ。

 二人を見上げて白埜がいつもより少しだけ張った声を上げる。

「……それいじょう、は。…ぜっこう」

「はァあ上等だろこんなクソアマと話すことなんざこれっぽっちもねェからなァ!」

「代弁どうもありがと。人語が話せるなんてえらいえらいでちゅね~そのまま野生に帰ってね?」

 尚も煽り合戦を続ける二人に、白埜の言葉が続けられる。

「ちがくて。ぜっこう…シラノ、と」

「命拾いしたなカス。せいぜいこの子の温情に感謝して余生を楽しめ」

「よかったわねゴミ。ここはハクちゃんに免じて許してあげるわ」

 白埜至上主義の二人にとって少女との絶交は死刑宣告にも等しい。その回避の為であれば仲直りくらいは造作も無い。

「じゃあそういうことで…三番目は音々ってことで…もういいよねそれで?」

 もう既にげんなりしていた旭の確認は酷く雑だった。ここまで引っ張った以上、最早是が非でも出てもらわねばげんなりのし損というものである。

「ハクちゃんにいいとこ見せる機会だと思えば安いかもね。いいわボス、あたしが同盟に仇成す数多の敵を討つ」

 別に仇成してないし討つ必要性も無かったがそれに突っ込む気力は失せていた。ぱちぱちと小さな両手で拍手をしている白埜に気を良くしている音々はそのまま出番まで放っておいて構わなそうだった。






     音々


   《人物詳細》

 長い茶髪をストレートに流し、額の左右から鳥類の爪に似たヘアピンで髪を分けて視界を確保している。常に緩い余裕のある服装を好む。

 人間であれ人外であれ、可愛らしい娘を前にすると鼻息荒く興奮してしまう一面があり、同盟構成員に諌められることも多い。百合というよりは母性愛からくる衝動だと思われる。

 人外としての真名は、大昔より岩礁を縄張りとして数多くの船やその乗員に被害を出した魔獣種・セイレーン。

 音々は唄による様々な状態変化・異常・上昇を引き起こせる。同盟内では常に中・後衛で前線の味方の士気や身体能力を向上させる唄を使っているが、これを自身にもかけることで前衛としても問題なく戦えるだけの実力を持っている。

 魔獣種の特性として獣の因子を保有しており、戦闘の際は背中から黒い翼が飛び出る。魔獣としての象徴の意味合いが強く、実際に自在に飛翔したりすることは出来ないが、高所からの滑空や落下速度の減勢程度は可能。




   《能力》


 ・魔声

 音々は人外としての特徴として特殊な喉の構造をしており、一度に複数の声帯運動を同時に行える。敵の行動を阻害する唄を口ずさみながら自身を強化する唄や会話をしたりも出来るので基本的に戦闘中は常に何かしらの唄を編んでいる状態となる。

 最大で三重の並行歌唱が可能。無理を重ねて四重までやれるが短時間で効果が切れてしまう為あまり使うことはしない。





ちょっと紹介↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892405146/episodes/1177354054935161083

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