第3話
セチアは、書物に書かれていたことを思い出そうとする。あと少しで思い出せそう……、という時にコニーが花を降らせた。
〈プリンティー探し、楽しそう!〉
コニーは楽しいことがあるとすぐに花を降らして、気分を表現する癖がある。
「コニー、何か探す手立てはないかい?」
アルトラが彼女を手の上に乗せながら、優しく聞く。ローザもライヒに尋ねる。
「ライヒも気配などは感じないですか?」
〈知らなーい。気配は、もうこの部屋にはないよ〉
〈コニーも分からなーい。どうしよー?〉
彼らの会話を聞きながら、セチアは彼女が降らせた花が近くに置いてあるティーポットに落ちるのを見つめた。花吹雪の中、白い衣をまとった者が舞っているようだった。
すると、何かが脳裏に浮かんだ。同時に、それまで項垂れていたホーリーが何かを思い出したように顔を上げる。
「そ、そういえば! 解毒剤のような植物が」
『解毒剤』と聞いて、セチアは手を叩く。
「そうよ! ホワイトポインセチアよ!!」
「「ホワイトポインセチア?」」
アルトラとローザの声が重なる。セチアは、紅茶の入っているティーポットを手にしながら、説明する。
「ホワイトポインセチアは、赤色のポインセチアと対になっていて、その昔あらゆる解毒剤として使われていたそうよ」
「赤色以外の色があること自体、初耳だな」
アルトラがセチアの話に興味を示す。
「ホワイトポインセチアは、赤色のとは少し育て方が違うのよ」
「なるほど、だからあまり見かけないのか」
彼は納得したようにうなずく。セチアは、ホーリーに優しく問いかけた。
「赤いポインセチアはどこで見つけたの?」
「庭の奥の方にある森の中です。気付いたら、何故か迷い込んでて」
妖精あるあるだ。人間を別の場所へ迷い込ませる癖がある。さらに厄介なことに、伯爵邸の庭はかなり広い。さすが花の妖精の加護を受けているだけあり、様々な花や木々が植えられている。庭師のホーリー以外の者は、よく迷子になると聞いたことがある。そのホーリーを迷い込ませたのだ。相当なイタズラ好きに違いない。
「コニー、ホワイトポインセチアを見たことがある妖精がいないか聞いてくれる?後で好きな蜜をあげるから」
〈分かったー! 聞くー〉
コニーは『蜜』と聞いて、嬉しそうな顔をしてすぐに姿を消した。妖精にお願い事をするときは、その代わりに値するものを渡す決まりが昔からある。コニーはハチミツが好物なのだ。ちなみに、ライヒは笹の葉などの食べられる葉っぱが好きらしい。
〈僕は何かあるー?〉
ライヒがセチアの肩に乗りながら、尋ねた。
セチアは顎に手をあて、少し考えてから微笑む。
「ライヒは、森の中でプリンティーを見かけた子がいないか探してくれる?」
〈お安いご用! ローザ、行ってくるー〉
「はい、お願いしますね」
ライヒは、ローザに頭を撫でてもらってから姿を消した。それから、セチアはホーリーの顔を覗き込む。
「私たちも探しに行きましょ。歩いた道のりを教えてくれるかしら、ホーリー」
「は、はい! 僕もお手伝いさせてください」
ホーリーは慌てて立ち上がる。すると、アルトラに呼び止められた。
「セチア」
「うん?」
小さくなった手が伸び、セチアの手を握る。その手を握り返し、彼を見つめる。
「僕も一緒に行きたいところだが……」
「大丈夫よ、アルトラは仕事があるでしょ?必ず、私があなたを元の姿に戻すから待ってて」
胸に熱いものが込み上げてくる。本当は怖い。自分に探し出せるのか自信はない。だが、やるしかないのだ。ゆっくり目を閉じ、深呼吸してからもう一度彼を見る。彼は真っ直ぐにセチアを見つめていた。
「ありがとう、セチア。君を信じてるよ」
そう言って、アルトラは優しく微笑む。そんな小さくなった彼をぎゅっと抱きしめ、ホーリーと共に部屋を出た。
玄関へ行くと執事のシャルがコートを手にして立っていた。
「セチア様、外は寒いので、こちらを」
「ありがとう、シャル」
「いえ、旦那様を早くお戻し出来るようにお願いいたします」
「もちろんよ」
そう返事をし、セチアは扉に手をかける。
(絶対、元の姿に今日中に戻すわ!)
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