第16話それから

 恥知らずであり、生き恥を晒している僕ですけど、それでも人に誇れることがあるとするならば、それは小説を書けることです。

 しかし依然としてそれは空想や妄想の域を超えない、リアリティのない作品が多いと思います。

 かといって、小説を書けるという事実は、僕に生きる喜びを与えてくれたのです。


 書き始めたのは、2016年の二月頃からです。それまで一度も小説を書いたことはありませんでした。

 初めのうちは何を書いていいのか分からずに、探り探りに書いていました。

 そうして書きあがったのが『幸せになりたかった子』でした。

 そのタイトルから推測しますと、本当に幸せになりたかったのは、小説に登場する子供ではなく、僕自身だったのかもしれません。

 今でも、幸せになりたいと願っています。


 大学を辞めてからの顛末を語りたいと思います。

 大学を辞めて、半年後。僕は専門学校に入学しました。そこで二年間勉強をして、民間の企業に就職できました。

 今は会社員として働いています。


 しかし会社員と言っても、かなり特殊な業種に勤めています。なので休みが不定期になってしまうのが難点でした。

 まあその分小説を書きやすいと言えば書きやすいのですが。


 そうそう。専門学校時代はとても楽しかったです。

 勉強は苦しかったけど、クラスメイトは優しかったし、面白い人達で、何より死んだ人はいませんでしたから。


 専門学校の友人には感謝しています。僕の過去をほとんど明かすことはなかったけど、それでも良い友人たちだったと自慢できます。


 さて。今勤めている勤務場所の人達も、良い人ばかりです。新人の僕に対して丁寧に仕事を教えてくれますし、資格の勉強も捗るように配慮してくださります。

 しかし、僕の心の空虚は満たされることはありませんでした。

 淋しくて辛くて、悲しいのです。


 過去は僕にとって立ち向かうべきものであり、同時に乗り越えるものでもあるのです。

 そうでないと未来に進めないのです。


 しかし過去を打破するのは、今を生きることよりも難しいのでしょう。

 既に起きたことをどうやって、変えれば良いのか見当もつきません。


 だからこの小説を書いたのかもしれません。

 自らの過去を乗り越えるために、僕は私小説を書いたのでしょう。

 この小説を綴るのは、とても忍耐の要る作業でした。

 しかし、後悔はしていません。

 言えることと言えないことの区別をつけながら書いたりすることもちょっと大変でしたけど、それでも心の整理がついたと思います。


 では最後に、今までこの小説を読んでくださった奇特な方々にメッセージを送ることで、この小説を結びたいと思います。


 人生は自分では変えることができないなんて、そんなことはありません。

 起きてしまった過去は変えることは叶いませんが、未来は変えることができるのです。

 僕みたいな弱い人間でも、こうして生きていられます。それなりに楽しく生きています。

 人生の中で壁にぶつかることもあるでしょう。逃げ出したいときもあるでしょう。


 それでも立ち向かうことが大切なのです。

 負けてしまっても、立ち向かったという事実が人を強くすることは現実としてあるのです。


 僕は不幸な人間です。駄目な人間です。それでも生きています。僕の不幸に比べたら、ちょっとした悩みだって吹き飛んでしまいます。

 僕がこの小説を綴った理由は、僕の人生を読んでもらうことで、逆に勇気づけられるようになってもらいたいからです。

 僕のような人間を優越感だろうと見下していたとしても、元気が出てくれるならば、書いたことを誇らしく感じます。


 この小説を読んでくださった方に最大限の感謝を贈りたいと思います。そしてたくさんの小説を書くことで、読んでいて楽しかったなあと思ってもらえる作品を書き続けたいと思っています。


 そして少しでも、僕の大切な人達への弔いになるのだと信じています。

 そんな風に考えながら、僕は今でも恥知らずでいながら、小説を書いています。

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僕の半生 橋本洋一 @hashimotoyoichi

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