魔女ヴルカンの火葬

 魔女ヴルカンがサラマンドラの飼い主となってから、さて何百年の時が流れたことでしょう。もともと曲がっていた腰はせむしのように折れ曲がり、耳ははてなく遠くなり、目もかすんでよく見えなくなっておりました。いつしか世は文明開化の時代を迎え、森に棲む魔女にものを頼みに来るひともめっきりと減りました。


 それでもヴルカンは調子のよいときにはサラマンドラに手を引かれ、昔懐かしいベルグレーテの森の木陰を散歩などしておりましたが、そんな日々にもやがて終わりはやってきたのでした。


「おやおや、あたしにもとうとうお迎えがやってくるようだねえ」

「わう!わうわう!」

「あたしは屍術師だから、じぶんで自分を骸骨魔道に変えてしまうこともできるのだけど、もう十分に生き永らえたし、そんなことをする気はしないねえ」

「くーん……?」

「あたしのサラマンドラや。最後の命令だよ。あたしは家で寝ているから、町へ行って誰か人を呼んできておくれ。寄り道をするんじゃないよ。拾い食いもしてはだめだよ」

「わん!」


 そしてサラマンドラは走り出しました。町に着くと、アスファルトの道路の上を自動車が走っておりましたが、森から出たことのないサラマンドラにはそれが何というものであるのか分かりません。ただ、通りで子供たちが缶蹴りをしているのを見かけましたので、その少年たちの前で向かっていっしょうけんめいに吠えました。


 少年たちは、サラマンドラがあんまり吠えるので、彼のあとをついていきました。そして森の中で、既に燃え尽きて炭になったヴルカンの住処の跡と、そこに残された焼けた人骨を発見し、大人たちを呼びに戻りました。


 やがて、一通り事態が済んだ後。少年たちは大人に尋ねられて、こう説明しました。


「いっぴきの赤い毛並みをした大きな犬が、悲しそうな声でいっしょうけんめい吠えたんだ。だから後を追っかけたんだよ」


 街の人たちは森の中で見つけた人骨を丁重に弔い、墓をつくりました。しかし、その犬がどこへ行きどこへ消えたのかは、ついに誰の知るところともならなかったそうです。


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骸骨犬サラマンドラの話 きょうじゅ @Fake_Proffesor

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