骸骨犬サラマンドラの話

きょうじゅ

サラマンドラの誕生

 その老婆は本当の名をヴルカンと言いましたが、人からは‟火葬の魔女”と呼ばれておりました。彼女はしかばね使いであり、屍者を操るのですが、そのために屍を魔術で骨へと変えるさまがまるで荼毘だびの炎のようであったからです。


 ヴルカンはその魔術のために多くの秘薬を必要としましたが、中でも人面草マンドラゴラを珍重しておりました。マンドラゴラは彼女の屍術の要であり、屍者を動かすためにはどうしても欠かすことのできないものでした。


 マンドラゴラはヴルカンの棲むベルグレーテの森の中に稀に自生しています。人の手で栽培するすべは知られていません。ヴルカンはマンドラゴラの生えているところを見つけると、大慌てで住処にとって返し、けらいの骸骨を連れて戻ります。そしてけらいの骸骨にマンドラゴラを引っこ抜かせるのです。


 生きた人間がマンドラゴラの引き抜かれる際の悲鳴を聞くと死ぬか気が違うかしてしまいますから、魔女ヴルカンといえど自分の手でそれをするわけにはいかず、だからけらいの骸骨を使うわけですが、すでに死んでいるはずのけらいの骸骨でさえ、マンドラゴラを引き抜いてその悲鳴を聞くと、がらがらと崩れ去ってしまうのがヴルカンには悩みのたねでした。


 けらいの骸骨を作るのにマンドラゴラが必要なのに、マンドラゴラを収穫するのにもけらいの骸骨が必要なのです。ヴルカンはもとよりたくさんのマンドラゴラを集めなければならないのに、これでは効率が悪くて仕方がありません。


 しかしある日、ヴルカンは閃きました。マンドラゴラでも、相手がドラゴンならば殺すことができないのではないだろうか。生きたドラゴンそのものを使役することは人間には無理であるけれども、犬の骨を集めて火炎竜サラマンダーのかたちを作り、竜の魂を核としたけらいの骸骨を作れば、マンドラゴラを抜かせても平気なのではないだろうか。


 ヴルカンは気の長い性格でしたから短くはない時間をかけて寿命で死んだ犬の亡骸を集めて骨を抜き取り、それを組み立てて、そしてこれも自分で調達してきた竜の魂を込め、一匹の骸骨犬を作り出しました。魂を入れると、その骸骨犬は一声犬のように吠えました。


「わおーん」

「おやおや、おかしいね。おまえは竜の魂を持っているのに、そんな風に犬のように吠えるのかい。がおー、とないてみておくれ」

「わんわん。わんわん。くーん」

「おやおや、やっぱりお前は犬のようだね」


 そんな骸骨犬ですが、それはそれとして、いざマンドラゴラを口でくわえて引き抜かせてみると、果たして彼ががらがらと崩れ去ってしまうことはありませんでした。


「おやおや、お前は犬のようだけど、役には立つようだね。ふだん、けらいの骸骨に名前など付けないのだけれど、お前には特別に、サラマンドラという名前をあげようかね」

「くーんくーん。ハッハッハッ」


 こうして、魔女ヴルカンとサラマンドラの暮らしが始まりました。

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