第2話 逆転神

「じゃあ早速打ち切りしてみるか?」  

「ちょっと待って下さい。タメ語使ってスミマセンでした。お願いですから殺さないで下さい!」

「まぁ俺の命令に従ってれば問題ないよ」

「はい……」 


 ――打ち切り神は怒ると一番ヤバいタイプの人間だな。


「もう時間ないから飛ばすで。後は助っ人送ったから、そいつに聞けや」


「え飛ばすってどこに――」


「エンっっ!!」


 俺の意識はプツリと途切れた。


 目が覚めると雀荘にいた。

というよりかは神様のように雀荘を見下ろしていた。


 周りではなぜか黒服の大人達が取っ組み合いの喧嘩をしている。


 呆然と佇んでいると肩にポンと手が置かれた。


 後ろを振り返ると茶髪ポニーテールの美少女がいた。クリクリとした目は小動物を彷彿させる。


「君が新人の神かな?ウッチーから話は聞いたよ」


 打ち切り神の野郎、あだ名はウッチーなのか。目の前で言ったら間違いなく殺されるな。


「私、逆転神。よろしくね」

笑顔がとても眩しかった。


 あぁ、この槍杉多朗34歳。彼女なし。

毎年バレンタインに母の手作りチョコレートを貰っていた私は、女性慣れしてないのだ。


「俺が時間神だ。よろしくな」

――多分声は震えていただろう。


「なぁ、逆転神。ここは現実世界なのか、それとも異世界なの?」

「どっちも半分正解。ここは漫画の世界だよ」

「漫画の世界だと!?」


 ナルホド、打ち切り漫画の世界に直接関与することで強制的に打ち切るのか。


「この作品は『マージャンキング』。麻雀バトルがハイレベルすぎて読者を置いてけぼりにしたの。それで打ち切りになってこの有様よ」


作者が自暴自棄になったのだろうか、もはや麻雀ではなく力自慢のキング決めになっていた。


「確かにマイナースポーツの漫画が読者に馴染みがなくて、すぐ打ち切られるパターンは山ほどあるな」


「麻雀ほど有名な遊戯では珍しいけどね」


ポニーテールを揺らしながら彼女は笑う。


「それで俺は何をすればいいんだ?」


「簡単よ。時間を一日飛ばせばいいだけよ。後は何とかするわ」


「俺に時間を操れる力があるらしいけど使い方が分からんよ」


 アハハ、と彼女は馬鹿にしたように笑う。


「力を強く込めればなんだって出来るわよ。技名もつければ尚更ね」


「技名だと!? 僕は30代だぞ」


「あんたもう人間じゃないでしょ。たかが30歳ぐらいでイキるんじゃないわよ」


 怒られてしまった。

「……そろそろいい時間よ。早くしないと、打ち切り神の転移魔法が切れてしまうわ」


「分かったよ」


 僕は意識を時間跳躍に全集中させる。


暗躍なる時間跳躍リーピングインザダークタイム


逆転の結末ディエンドオブザリバーサル

すかさず彼女が被せてくる。


 目の前の空間がひん曲がって真っ暗になった。


 気がつくと、元いた空間に戻っていた。打ち切り神が満足そうに手を叩いている。


「やはり元編集者の適性能力は素晴らしいな。契約しといて良かった」


「ちょっと、あんまり無理させないでよ。さっきまで倒れてたじゃない」

逆転神が口を膨らませて文句を言う。


「まぁまぁ結局夢オチとして締められたんだから良いではないか。これで作者は気兼ねなく新作を書けるだろう」

と打ち切り神はニコニコして言った。


(俺が時間を飛ばして、彼女が漫画の現実世界を逆転し、夢オチにさせたのか……)


「ていうか打ち切り神が転移魔法使えんのおかしくないですか?」

「いや空間の流れを打ち切れば安牌よ」


(マジでなんでもありだなこいつは)


「では初仕事も終わったことだし、男三人で頑張っていきましょう!!」

「うん。……え?えええええ!?君は女性じゃないの?」


「あぁワシ説明し忘れてたわ。逆転神は性別も逆転してるからの。彼女は男の娘じゃ」


俺は失恋の落胆とやるせなさで死にかける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

打ち切り漫画の時間飛ばしてるけど質問ある? 桜杏 @sakurakyoko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ