打ち切り漫画の時間飛ばしてるけど質問ある?

桜杏

第1話 打ち切り神

 目を開けると小太りの禿げたオッサンがニコニコしながら立ってた。

 

「……あんた誰?」

「オジサンは打ち切り神だ」


 仕事のし過ぎで頭がおかしくなったようだ。俺は頬を思いきりつねる。何も起こらない。


 自称打ち切り神? はどこから出したのか知らないが、使い古したであろう汚い本をパラパラと捲っている。やがて一枚のページで手が止まった。


「えー槍杉多朗やりすぎたろう34歳。週間老年ジャンクの編集者。トラックとの衝突事故で死亡か」


「は?なんで俺のこと知ってるの?ていうか俺死んでんの!?」

「えぇ残念ながら」

「じゃあなんで俺生きてんだよ!」

「今は魂を具現化させてます。実感はないでしょうが」


 小汚いオジサンは未だにニコニコしている。このまま話を聞いといた方が良さそうだ。怒らせたらヤバそうだし。


「死んだ俺を呼び出したのはなんで?」

「実はそこが本題なのです」


 オジサンは急に真面目な顔になった。


「私と一緒に打ち切り漫画を救って下さい」


「打ち切り漫画を救うって……俺が!?」

「その通りです。槍杉さんって結構漫画打ち切ってきましたよね?」

「そうだけどさ……」


 俺は自分で打ち切ってきた数々の漫画達を思い浮かべる。


「人気作のラストを思い出して下さい」

「甘噛み探偵猫なんかは綺麗に終わったな」

「でも打ち切り漫画はそうにはいかないのです。人気漫画には専属の神がいるのですが、不人気作は見放されているのです」

「打ち切り漫画は勝手に終わるだろ。何が問題なんだ?」


 俺がそう言った途端、オジサンの顔が鬼のように怖くなった。ヤバい、どうやら逆鱗に触れてしまったみたいだ。


「馬鹿野郎! 漫画の中の演出がタダで起こってるのと思ってるのか!! 爆発オチだって安くはないんだぞ!俺ら二次神様はなぁ漫画の中の世界を担当してんだ」


(いやそんなこと知らねぇよ……)

 オジサンはまだ怒り続ける。


「打ち切り漫画がオチもなかったら、どうなるか考えてみろ!」


 ――それは確かに悲惨だ。ページ一枚で連載を切ったことがあるが、確かに辛かった。


「じゃあどうすればいい」


「決まってんだろ。お前が神になって打ち切んだよ」

「え?(何言ってんだコイツ)」

「んーそうだな。ちょうど空いてるし、お前時間神やってみんか?」

「時間神ってなんすか」


 強そうな名前に心が高ぶる。


「主な役割は、最終回で時を数年間飛ばす奴だよ」

「はい、打ち切り漫画あるある〜NO.1(笑)」


 読者も最終回で時がいきなり飛ぶのはおかしいと思ったことはないだろうか。


 あれは全部、時間神のせいなのだ。


「でも俺やる必要ないよね」

「忘れてないかい。お前はもう死んでいるのだよ」


(そうだったわ。話が異世界すぎて忘れてた)


「じゃあこうしよう――お前が打ち切り漫画を無事終わらせてくれるなら、生き返らせてやろう」


「なら是非ともやらせて下さい。編集部の鬼と言われていたのでバンバン打ち切ります」


 オジサンは指切りの形で小指をこちらに差し出した。


「指切りだ。これでお前は時間神になる」


 俺の小指とオジサンの小指が交差する。


「よしこれで契約完了だな。今日から君もオジサンの仲間だ」


(意外と呆気ないものだったな)


「あ、ちなみに打ち切り失敗したら死ぬから。オジサンなんでも打ち切れるんだよね。勿論君の命も」


「な、なんだってーーー!!」


 






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