「鬼役目…」

低迷アクション

第1話

「あれは、2度目の大戦が負け始めた頃じゃな…」


“老人”は囲炉裏の火を調整しながら、まだ、震えている自分の手に、

暖かいお茶を握らせながら、語る。


山間部でのバスは本数が少ない事を失念していた。徒歩での下山を開始して、数時間…


辺りは闇に包まれ、疲弊しきった所で“何か”を見た。


“それ”に驚き、逃げた先は空き家ばかりの集落…

その中で唯一、明かりの灯った家に転がり込む。


迎えてくれた老人は、こちらの話を静かに聞き、介抱をする途中で話が始まった…


「あの頃は悲惨でな。若い男は皆、兵隊にとられちまって、村には女や老人、子供ばかり…最期の方は老人も子供も、みーんな兵隊に行った。そして、誰も帰ってこなんだ。


食いモンだって少なくなってきて…残ったのは不安と不満じゃった…」


外で、犬の遠吠えのようなモノが上がる。老人は顔を向けるも、

話は止めない。


「“役割”が必要だった。あらゆる不満をぶつける相手がな。村には体が弱く、兵隊に行かなかった男がいた。最初は石を投げたり、汚い言葉をかけたりした。


それが、どんどん酷くなっていく。食事を与えない。家から叩き出し、山に追い立てる…


やがて、誰かが言った。


“コイツは人じゃない、鬼だ!”


皆、イカレておった。しかし、国そのものが狂った時代…

どんな事が起きても可笑しくはない。それが山の寒村で起こった。

ただ…それだけの事なんじゃ」


老人の声とは別に、外から何か聞こえる。あの音は何だ?

まさか、人の足音?


それに構う事なく、老人は話を続ける。


「挙句、最後は、死んだ牛から採ってきた角を、男の頭に埋め込んだ。

惨い事をした…つけられた男は笑っておったよ。


すっかり壊れてな。そして戦争も終わり、村は以前の生活に戻った。

男はどうなったって?わからん…


いつの間にか、姿が見えんようになった。殺されたか、山に逃げたか…

時々、村のモンが山で死んだが…まぁ、それも熊のせいにされたな。

後は時代が進み…もう、この村にいるのはワシだけじゃ」


「し、しかし、見ました。角を生やして真っ黒い、目が異様に大きい…」


叫ぶ自身を、老人は手で制す。片方の人差し指を口に当てながら…


「あまり騒ぐな…“人”はワシだけじゃ。アレは時々下りてくる。

役目を果たしにな…」


歩く音が家の前で止まる。怯える自分を見た老人が口を開く。


「今晩は泊まっていけ。明日、下りる道を案内するからの」


頷く自身を見て、老人は、ゆっくりと火を消した…(終)

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